微小位相差論——時間・存在・意識の統合的理論 学会発表用抄録+口頭説明資料

完成版1,678文字 

微小位相差論——時間・存在・意識の統合的理論

1. 序論:問題の所在

時間とは何か。この問いは古代ギリシャ以来、哲学と科学において中心的課題であり続けてきた。近代科学は、時間を均質かつ可逆的な数学的パラメータとして扱い、ニュートン力学における絶対時間概念を確立した。20世紀に入ると、相対性理論は時間と空間を統合し、観測者の運動状態によって時間の進行が相対化されることを示した。しかし相対性理論においても、観測者はあくまで物理的存在として扱われ、その意識状態や意図といった内的条件は理論の外部に留め置かれている。

一方、現象学は早くから時間と意識の不可分性を主張してきた。フッサールの「内的時間意識」、ハイデガーの「存在と時間」、メルロ=ポンティの「知覚の現象学」は、時間が客観的に流れる容器ではなく、意識の構造そのものと結びついて生成されることを明らかにしている。しかし現象学的時間論は、物理的時間との接点を十分に確立できず、科学的記述との統合という点で理論的曖昧さを残してきた。

本論文が提示する微小位相差論は、この物理学と現象学の分断を乗り越え、時間・存在・意識を統合的に記述する理論的枠組みを提案するものである。本理論の核心は、時間を均質な直線的流れとしてではなく、複数の位相が微細な差異を保ちながら重なり合う「場」として捉える点にある。

2. 理論的枠組み:位相場としての時間

微小位相差論における「位相」とは、物理学における位相場理論から着想を得た概念である。位相場理論では、空間の各点に位相が割り当てられ、その変化や勾配が物理的相互作用を生み出す。本理論は、この考え方を時間構造へと拡張する。すなわち、時間の各点に単一の値が対応するのではなく、過去・現在・未来という複数の時間位相が、微細な位相差を伴いながら同時的に存在していると捉える。

ここで重要なのは、位相差が測定可能な物理量としてではなく、現象が成立する条件そのものとして作用する点である。世界は一つの均質な客観的実体として存在するのではなく、複層的な位相場として構成されている。観測主体の意識がどの位相に同調するかによって、同一の対象であっても異なる様態として現前する。これは主観的錯覚ではなく、存在そのものが多層的であることの帰結である。

従来の自然科学は、観測者を価値中立的な外在者として扱い、観測対象から切り離してきた。相対性理論は観測者の物理的条件(速度や重力場)によって時空構造が変化することを示したが、観測者の意識状態や意図は依然として理論の射程外にある。微小位相差論は、この外部化された意識を理論内部へと組み込み、意識そのものを位相場の一部として位置づける。意識の同調状態が、現象の現れ方を決定するのである。

3. 方法論:写真による位相差の可視化

微小位相差論は、抽象的思弁にとどまらず、具体的な表現実践を通じて検証される。本理論の中核的な方法論は、定点撮影による二枚一組の写真作品である。

同一地点から、わずかな時間差をもって撮影された二枚の写真は、物理的にはほぼ同一の構図と光学的情報を共有する。しかし鑑賞者は、そこに測定不可能な「違い」を直感的に感知する。この差異は、画像間のピクセル差分として算出される物理的変化ではない。それは鑑賞行為の内部に生じる時間的ズレ、すなわち微小位相差として経験される。

従来の写真理論では、写真は「それは=かつて=あった」(ロラン・バルト)という、過去の固定として理解されてきた。これに対し、微小位相差論において写真は、過去を固定する装置ではなく、複数の時間位相が共存する場を現前させる媒体と捉えられる。二枚一組の写真は時間の流れを記録するのではなく、時間の重層性そのものを可視化するのである。

4. 理論的帰結:意識と創造性

微小位相差論は、AI時代における人間の創造性を再定義する視座を提供する。現代のAIは、画像認識や自然言語処理、さらには画像生成において、人間を凌駕する高速な情報処理能力を示している。しかしAIが扱うのは、あくまで離散的情報の統計的組み合わせである。

これに対し、人間の意図は、過去の経験、現在の知覚、未来の予期が分離されることなく、一つの位相場として統合されたものである。創造性とは、情報処理の複雑性ではなく、時間を横断して形成されるこの統合的位相場のあり方に根差す。

写真家の撮影行為は、単なる瞬間的判断ではない。それは長年の経験、対象への関心、未来の鑑賞者への意図が、一つの位相場として集約された行為である。この時間的統合は、AIのアルゴリズムによって再現することはできない。

5. 結論と展望

微小位相差論は、時間を均質な流れとして捉えてきた近代的時間観を退け、時間を複層的な位相場として再構成する理論である。この理論的転換は、写真表現論にとどまらず、認識論、存在論、情報理論を横断する射程を持つ。

本理論が検証されれば、個人の世界認識、テクノロジーの方向性、さらには科学的方法論そのものに変容をもたらす可能性がある。相対性理論が時空観を変革したように、微小位相差論は存在と時間の構造理解を根本から更新しうる。

今後の課題としては、位相差の定量的モデル化、神経科学的検証、そして写真以外の多様な表現領域への応用が挙げられる。本論文は、その理論的基盤を提示する初発の試みである。


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