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虫の音のままに 215話

虫の音のままに 空のいろ 雲のかたち 光のさしわたるさまも いつしかしづかにとほざかりて   やがて闇の帳 世をやさしゅうつつみぬ   けふといふ名のひととせも   こゑのう かげのう   ただそっと消えゆきて   人のこころの奥にのみ とどまりけり   されど 虫の音はたえず   風にまかせて ほのかに鳴きわたる   そのこゑ 時をこえて   とこしえのものとなりぬ   ものみなうつろひゆくなかにて   虫のねのみぞ 世々をこえて   かすかに やさしゅう ひびきわたる     虫の音のままに   虫の音に耳を澄ますとき、 空の色は淡く溶け、雲のかたちは漂い、 光は一筋の余韻となりて消えてゆく。 すべては静かに遠のき、やがて闇の帳が降りて、 世をやわらかに抱きしめる。 今日というひとときもまた、 声も影も、そっと姿を消し、 ただ人の心の奥底にのみ、 淡き記憶として留まり続ける。 されど虫の音は絶えることなく、 風に身を委ね、かすかに、果てしなく鳴き渡る。 そのひびきは時を超え、 儚きものごとを越えて、永遠の調べとなる。 移ろいゆく世界のただ中にあって、 虫の音のみが世々を渡り、 微かに、優しく、人の魂に響き渡るのである。