第4章 景色は消え行く 305話
目の前の景色は、記憶の残像のみで瞬間的に消えていく。
二度と同じかたちでは再現されない。
けれど、心の在り方は、そう簡単には変わらない。
ずっと続くものも、確かにある。
果たして、景色は幻なのか。
世界や宇宙の異変よりも、実はそのほうが驚きだ......
「今日は、やけに風が冷たいな」
「そうや。不二子は家から出られへんでぇ」
「最近、甘えたぁやな。不二子(笑)」
「ええやん。新婚やし(笑)」
「そうやったな(笑)」
「もう忘れたんか?」
「忘れとった(笑)」
「ふん」
「お、不二子が怒った。初めて見たわ。可愛いのう」
「今晩は、牛のモモステーキか、厚切りサーモン。どっちがええ?」
「そやな……どっちも!」
「むちゃぶりするな(笑)」
「よっしゃ。ほな、ステーキでいこか」
「なんでそうなるん?」
「てきとうや(笑)」
うひひ。つんつん。
「なんや」
「なんか、後ろめたいこと、ないか?」
「なんもないで」
「そうか(笑)」
「あ、聞こえてたんやな」
「お見通しですがな。不二子やで」
「なら言うで。好きになったんは、不二子と出会うより、ずっと前や。どうじゃ?」
「……わかりもうした。負けたで(笑)」
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