第14章 不二子はんの「里芋はんが主役どす」 634話
「あん様、今日は手羽元の骨で出汁を取って、里芋を炊きますえ」 不二子はんは、手羽元を圧力鍋に入れる。 「まず低圧で10分。圧が下がったら里芋を入れて、もう10分。これで鶏の旨みを里芋に移すんどす」 里芋は皮をむき、大きければ半分に切る。醤油、白だし、赤酒で味を整え、ほんだしは必要なら少々。お酢も使うなら、後味を引き締める程度に控えめに。 「ええか、調味料は足し算ばっかりしたらあきまへん。里芋そのもののおいしさが消えてしもたら、何のために炊いたんかわからしまへんやろ?」 不二子はんは、煮汁をひと口味見した。 「うん、よろし。あとは火を止めて、味がなじむのを待つだけどす」 煮物は冷める過程でも味がなじむ。翌日、温め直していただくのも楽しみのひとつ。保存するときは、粗熱が取れたら冷蔵庫へ入れることも忘れたらあきまへん。 さて、翌日の昼下がり。 よしろうはんが鍋の蓋を開け、里芋をひとつ口に運んだ。 「……これは、うまいな」 「そやろ? 手羽元はええ仕事をしてくれましたけど、今日の主役は里芋はんどすえ」 よしろうはんは返事もせず、もうひとつ。 不二子はんは、にこにこしながら眺めていたけれど、ふと鍋をのぞき込んだ。 「あら。あん様、味見いうのは一個で済ませるもんと違いますの?」 「いや、味がしみてるかどうか……」 「二個目でわからへんかったん?」 三個目に箸を伸ばした。 不二子はんは、すっと鍋を引き寄せた。 「はい、そこまで。残りは夕飯どす」 「ええやないか、里芋くらい」 「あら、里芋くらい言わはるんやったら、夕飯のおかずが減っても文句はおへんな?」 箸を置いたよしろうはん。 不二子はんは、里芋を鍋に戻しながら、涼しい顔でひと言。 「おいしいもんほど、分け合うて食べるんがよろしおす。……まあ、誰と分け合うかは、別の話どすけどなぁ?」