第4章 平穏の選択 329話
夢から覚めたよしろうはん。
隣では、不二子もまだ眠っている。
よしろうは、そっと起きて書斎へ向かった。
「あー、よう寝たわ」
どうやら、たくさんの夢を見ていたらしい。
きょうは休みやった。
脳内を整理するように、よしろうは酒を口に含む。
ふと気配を感じると、
不二子が寝たまま、薄目を開けてこちらを見ていた。
何も言わない。
やがて、か細い声で——
「おはようさん」
よしろうも、少し気の抜けた調子で、
「おはよう」
二人とも、まだ完全には目覚めていない。
よしろうは、昨日見た家族のことを思い返していた。
そして、ひとつの決断に至る。
「これは、よくない。
ぼく様が身を引こう。
この幸せを壊すなんて、ぼく様にはできない」
——また、一杯、酒を流し込む。
ひとつの夢を、静かに葬った。
よしろうの中で、
それはとても長くて、とても大切な夢であった。
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