第12章 不二子はんの台所便り 636話
不二子はんの台所便り さて、夕方の台所。 よしろうはんが、かつおの柵をまな板に置いて、しばらく眺めておいでです。 「ふむ。刺身もたたきも、もういただいたしなぁ。何か違う食べ方はないものか」 そこへ不二子はんが、お茶を片手にやってきました。 「あら、よしろうはん。今日はかつおとにらめっこどすか?」 「いや、ちょっと考えごとをな。かつおを薄い豚肉で巻いたら、どうなるやろと思って」 「あらまあ。お魚にお肉のお召し物を着せるんどすな。ずいぶん贅沢な衣装どすこと」 不二子はん、さっそく興味津々。 「でも、よしろうはん。かつおは身に個性がありますやろ。豚肉に負けてしもうたら、せっかくのかつおがかわいそうどすえ」 「そこなんだよ。豚肉は薄く、かつおの味を主役にしたい」 「まあ、珍しく意見が合いましたなぁ」 二人で相談の末、今夜の献立が決まりました。 かつおの豚肉巻き。 材料(二人分) かつお 200g 豚ロース薄切り 6〜8枚 塩、胡椒 小麦粉 少々 サラダ油 酒 少々 作り方 まず、かつおを食べやすい棒状に切ります。 豚肉を広げ、かつおをそっと包みます。巻き終わりを下にして、形を整えます。 フライパンに油を薄く引き、弱めの中火で転がしながら焼きます。豚肉には十分火を通し、かつおは加熱しすぎないように。 最後に酒を少々振り、蓋をして短く蒸らします。 切り分けると、豚肉の薄い衣の中から、かつおの赤い身が現れます。 さて、味付けはまず塩だけで。 不二子はんが、ひと切れ口に運びます。 「ん……。あら、これ、なかなかよろしおすなぁ。豚肉の脂がかつおを包んで、思ったより仲良うしてますえ」 よしろうはんもひと口。 「なるほど。これは面白いな」 「ぼく様、もうひと切れいかがどす?」 「うん。もうひと切れもらおうか」 「あらあら。最初からそのおつもりやったんと違いますか?」 不二子はんは、笑いながらお皿を差し出しました。 料理というものは、案外こういうところから始まるのかもしれません。 いつもの食材に、ちょっと違う出会いを用意してみる。 さて、次は何を巻いてみましょうか。 不二子はんの台所には、まだまだ実験の余地がありそうどすえ。