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Elegant Latin Jazz House for Rooms & Hotels | The City Breathes After Midnight (1 Hour Mix)
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第12章 夜の帳 593話
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「お母様は台風でも踊りそう」 「踊るな」 「踊りますね」 二人はうなずいた。 その時だった。 踊っていた不二子はんが、いつの間にかこちらへ戻ってきていた。 「なんぞ失礼な話してますな」 「聞こえとったんか」 「聞こえてましたえ」 不二子はんは水を飲む。 「うちは台風では踊りまへん」 「ほら見ろ」 よしろうはんは鼻を鳴らした。 「危ないさかい」 「洪水なら?」 アルマーが聞いた。 不二子はんは少し考えた。 「二階で踊ります」 アルマーが吹き出した。 よしろうはんも笑った。 「やっぱり踊るんやないか」 「踊りますえ」 不二子はんは平然としている。 「どうせ心配しても水は引きませんやろ」 「まあな」 「ほな踊った方が得です」 「得なんですか」 「得どす」 不二子はんはそう言うと、またホールの方を見た。 ちょうど好きな曲が流れ始めていた。 「あ、あれ好きなんや」 そう言って足早に戻っていく。 百三十を過ぎた足取りとは思えない。 アルマーはその背中を見送った。 「お父さん」 ん? 「お母様は昔からああなんですか」 よしろうはんはテキーラを口に運んだ。 「昔はもっとや」 「もっと?」 「三日寝込んでも四日目には踊っとった」 「本当ですか」 「知らん」 「知らんのですか」 「たぶんや」 アルマーは声を上げて笑った。 窓の外では雨が降り続いていた。 ホールの中では不二子はんが回っている。 どちらが先に止むのかは、誰にもわからなかった。
THE ITALIAN SOUND: 60s LIBRARY JAZZ 🇮🇹🎷 [1 HOUR] Eurospy Grooves, & Cinematic Italian Jazz
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第12章 夜の帳 591話
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アルマーは流石に今時のステップを踏む。 80年代とは違いスマートな踊りだ。 「おとうさん。今日はすごい雨ですよ。家や田んぼは大丈夫でしょうか」 「あー、大丈夫なようにしてる。川の様子もカメラでわかる」 「そうですね。見せて、おとうさん」 「ほれ」 「あー、すごい。まだ半分もないですね。大丈夫だ」 不二子はんは踊りとなったら止まらない。 いつまでもホールで踊っている。 よしろうはんはテキーラ。 アルマーはカクテル。 カウンターで休んでいた。 「お母様、元気ですね」 「そやねん」 「あのステップ面白いやろ」 「はい」 「阿波踊りみたいやろ(笑)」 「ふふっ、少し」 「せやろ」 アルマーは踊る不二子はんを見つめた。 「でも、お母様が踊ると格好いいですね」 「そうか?」 「はい。なんだか楽しそうだから」 よしろうはんは微笑んでいた。
第12章 忘れ草 589話
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「不二子はん」 へー 「六十を過ぎても恋なんぞするもんかね」 不二子はんは湯呑みにお茶を注ぎながら微笑んだ。 「するんやないですやろか」 「そうか」 「春になったら桜が咲くようなもんどす」 よしろうはんは少し笑うた。 「人間は花か」 「そうですやろか」 不二子はんは窓の外へ目をやった。 田んぼの畦では、オレンジ色の忘れ草が雨に濡れて咲いていた。 「綺麗なもんを綺麗やなぁ思うたり、誰かの顔を見たいなぁ思うたり。そんな気持ちは歳と相談して出てくるもんやおへん」 「なるほどね」 「若い頃とは違いますけどね」 「どう違う」 「急がんようになります」 不二子はんは静かに言うた。 「若い頃は手に入れたいと思うもんどす。歳を重ねると、ただ傍にいてくれはったらええと思うたりします」 庭の小さな池で、メダカが水面をかすめた。 「それも恋か」 「恋やと思います」 不二子はんは少し首を傾げた。 「むしろ、そっちの方が本物かもしれまへんな」 よしろうはんは外を眺めた。 燕が巣作りをしている。 梅雨雲は低く垂れ込めていたが、田の水面はどこか明るかった。 「不二子はん」 へー 「人はいつ老いるんかな」 不二子はんはしばらく考えた。 そして穏やかに答えた。 「心が動かんようになった時やないでしょうか」 「心が?」 「ええ」 湯呑みを両手で包みながら続けた。 「田んぼの畦の花を見ても、山を見ても、人を見ても、何も感じんようになったら寂しいですやろ」 よしろうはんは頷いた。 「そうだな」 「恋いうのは、誰かを好きになることだけやありません」 不二子はんは微笑んだ。 「明日も、もう少し生きてみようかと思えることかもしれまへん」 二人はしばらく黙ったまま外を眺めていた。 忘れ草が、雨上がりの風に揺れていた。 「忘れ草(わすれぐさ)」は古くからの呼び名で、万葉集などにも登場します。忘れ草にはいくつかの説がありますが、現在では多くの場合、 ヤブカンゾウ を指すと考えられています。「忘れ草」という名は、「憂いを忘れる草」という意味から来ています。万葉集では恋の苦しみや悲しみを忘れたい気持ちと結びつけて詠まれました。 よしろうはんが毎年楽しみにしている美しい花。花の蕾は食べたり薬用効果...
~ Bloom & Void ~ Afro-Amazonian Expanding Psych World Ritual ~ Folktronica ~ Organic Downtempo ~
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第12章 梅雨のと或る日 584話
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なぁ。不二子はん。 へー 一緒に散歩しないか。 へー ええ塩梅でうちもそう思てましたさかい。 川端を歩く二人。 なにやらよしろうはんに悩み事でもある様だ。 へー それは案さんの思い過ごしやさかい。 そうかのう。 なにやら込み入った話の様で。話し合うふたりが歩いている。 燕が田んぼを飛んでいる。 梅雨の晴れ間に急いで巣を作っているのだろうか。 それでさ。 どう思う? へー うちにはわからへん。 そうか。 そうだよな。 早いものでもうすぐ家路に着こうとする二人。 なにやら笑顔で帰って来る。 ご機嫌なようだ。 あー。よかったで。不二子はんと散歩出来て。 へー うちも楽しかったで。 なんか作りましょうかね。
Artist Statement
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Artist Statement I am a photographer. Forty years ago, I came to Kyushu Island to photograph it. Since then, I have continued to travel across the island. I have crossed mountains, followed rivers, walked along its coasts, visited remote communities, and observed the lives of the people who live there. At the center of my way of seeing is the Ariake Sea. The Ariake Sea is known for its extraordinary tidal range. A place that is sea at high tide becomes a vast mudflat at low tide. There is no fixed landscape. Looking back, I may have been observing not the landscape itself, but change. As I continued photographing, a question gradually emerged. Can a single photograph truly describe the world? A photograph is a fragment of reality. No matter how compelling an image may be, it records only a single moment. The world never stands still. The same place. A slightly different moment. A subtly altered point of view. Between such images exists information that cannot be per...
~ Dust & Thunder ~ Afro-Amazonian War Dance Tribal Frenzy ~ Folktronica ~ Organic Downtempo ~
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Artist Statement — Yoshiro Shinkawa
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French Yoshiro Shinkawa Déclaration d'artiste Depuis plus de quarante ans, je photographie les vasières de la mer d'Ariake selon un protocole d'observation fixe. Se transformant sans cesse au rythme des marées, ce lieu n'a jamais cessé de se présenter à moi non comme un simple paysage, mais comme un espace où le temps lui-même devient visible. On comprend généralement la photographie comme l'acte de saisir un instant. Ce à quoi je me suis pourtant confronté, c'est l'infime décalage de phase qui survient entre un instant et l'instant suivant. Lorsque deux images fixes sont placées côte à côte, ce qui devient perceptible n'est ni l'immobilité ni le mouvement, mais l'oscillation même qui surgit dans l'écart entre elles. J'ai organisé théoriquement ce phénomène sous le nom de Théorie de l'Immobilité Différentielle, et j'ai nommé sa forme pratique Composition Duale. Cette théorie s'enracine dans la phénoménologie husserlien...
見直し
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生活設計は基本農林業とアルバイトなどで賄うが、アルバイトは来年の2月で辞める。その為、7か月以内に違う収入源を確保したい。農業で考えていたが改める。直接作業する田んぼはこれ以上増やさない。僕は現状でいいが、新規で米を作りたい人へ開拓していく。 さて本題だが。そろそろ作品販売をしてもいいかと思っている。 ArtPhotoLimited、YellowKorner、Singulart、Artsperの4つを検討。 また取り扱いギャラリーも必要だ。そこからの紹介でないと扱えない販売サイトもある。 info. ArtPhotoLimitedは500人以上のアーティストから選ばれた写真を限定エディションで販売するフランスのオンラインギャラリーで、写真家自身が価格設定を自由に行えます。作品がアートとして成立しているかどうかを審査されます。 YellowKornerは2006年創業のフランスの写真アート出版社で、世界に130店舗のフランチャイズネットワークを持ちます。価格は90ユーロ前後からで、コレクター向けというよりはインテリア層が主な顧客層です。 Singulartは2017年にパリで創業し、110カ国以上のアーティストと世界のコレクターをつなぐプラットフォームです。ギャラリーを介さず独立してアート販売できることを目指しており、審査プロセスがあります。 Artsperは2013年にパリで創業し、3,000以上のギャラリープロフィール、50,000点以上の作品を掲載しています。
第12章 雨の形 583話
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雨って、しずく型ではありません。 小雨は球体を保ち、 大きな雨粒は潰れてハンバーグ型になるそうです。 昔、あるイラストレーターが雨を見上げる構図で描いていました。 雨粒は真ん丸でした。 彼女はきっと、目で見たまま描いたのでしょう。 凄いよね。 大学生だった当時のぼくは感心しました。 いつの間にか、彼女はぼくのアパート内の向かいに引っ越してきました。 そういう訳で、お付き合いが三年ほどあったでしょうか。 当時から有名な漫画家さんでした。 「雨は下から見たら丸いんだよ」 もう四十年も昔のことを、よしろうはんは思い出していました。 彼も今空を見上げました。 丸いかもな。 そう思いました。 俯瞰で見るのではなく、見上げる。 僕の特徴であるローアングルから見る視点は、この辺りから生まれたような気がします。 結婚の約束をするも別れてしまった二人。 壮絶な別れ方でした。 ただ。 僕は、その頃と変わらないように思えます。 もっと小さい頃から、何も変わっていないようにも思えます。 適応しようとは考えない。 何なんだろうとばかり考えているんだ。
Carlos Piñana & Ensemble - Journey of instruments - ARTE Concert
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カルロス・ピニャーナは、1976年スペイン・カルタヘナ(ムルシア)生まれのフラメンコギタリストです。 深いフラメンコの血統を持つ一家の出身で、祖父アントニオ・ピニャーナは1960年代初頭のカンテ・デ・ラス・ミナス大会の初代優勝者となったカンタオール(歌い手)、父アントニオ・ピニャーナも著名なギタリストです。兄にギタリストのペペ・ピニャーナ、兄にカンタオールのクーロ・ピニャーナがいます。 カルタヘナ音楽院でクラシックギターを学んだ後、フラメンコに専念。マノロ・サンルーカル、ラファエル・リケーニ、エンリケ・デ・メルチョールに師事しました。ムルシア音楽高等院の学位とムルシア大学音楽研究の修士号を持っています。 Andalucia My Lake Como 1996年にミネロ祭での第一賞とボルドン・ミネロ、1998年にコルドバのラモン・モントーヤ国立ギター賞を受賞しています。ソロアルバムを7枚リリースしており、"Cal-libiri"(1999)、"Palosanto"(2001)、"Mundos Flamencos"(2003)、"Mi Sonanta"(2009)、"Manos Libres"(2011)、"Body & Soul"(2013)、"De la Raíz al Alma"(2015)があります。 World Music Central Symphony of Mercy パリ、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、モスクワなど世界各地で演奏してきた経歴があり、ムルシア交響楽団、トムスク・フィルハーモニー管弦楽団など多くのオーケストラとも共演しています。クラシックとフラメンコを融合させる「Rubato」というプロジェクトも手がけています。 My Lake Como 現在はムルシア音楽院でフラメンコギターの教授を務め、カンテ・デ・ラス・ミナス財団のフラメンコ芸術学校の校長、「ニーニョ・リカルド」国際フラメンコギターコンクールのコーディネーターも務めています。 Rcstrings ARTE Concertの"Journey of instruments"は、彼のアンサンブルでの...
第十二章 ひかえめ除湿 580話
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梅雨の昼下がりやった。 不二子はんは縁側で団扇をぱたぱたしながら言うた。 「奥方様、なんやこの湿気。ギターがふやけそうや」 「木の楽器には少々つらい季節ですね」 「よしろうはんも言うてはったわ。湿気はあかんて」 奥方様は庭を見た。 「湿気そのものより、急な変化の方が怖いのです」 「人間と一緒やな」 「そうかもしれません」 しばらく雨音だけが聞こえた。 「ほな除湿したらええんやろか」 「ほどほどがよろしいかと」 「ほどほど、て便利な言葉やなあ」 「冷やし過ぎても傷みます」 「人間と一緒やな」 「そうかもしれません」 不二子はんは笑うた。 「最近の機械は、ひかえめ除湿いうのがあるんやて」 「名前は優しそうですね」 「ほんまや。機械まで気ぃ遣う時代や」 またしばらく沈黙があった。 雨に濡れた庭の紫陽花が揺れていた。 「奥方様」 「はい」 「見えんもんを見えるようにしたんが眼鏡やて、よしろうはん言うてはった」 「ええ話ですね」 「せやけどな。考えるんは自分でやらなあかんのやて」 奥方様は少しだけ微笑んだ。 「それも、そうですね」 湿った風が吹いた。 不二子はんは団扇を止めた。 「なんでも、ほどほどやな」 誰に言うでもなく、そう呟いた。
第12章 続 つらつらと 579話
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不二子はんは鍋を火にかけながら言うた。 「よしろうはん、あのAIはこれからどうなると思わはる」 よしろうはんは縁側から答えた。 「人間の一部になる」 「へえ」 「道具やのうて」 「そや。眼鏡と同じや」 不二子はんは黙って聞いてはった。 「眼鏡かけてる人間は、眼鏡を通して見てるとは思わん。ただ見てるだけや。そうなる」 「意識から消えるんどすな」 「そや」 しばらく火の音だけがした。 「そうなったら、どこからがAIで、どこからが人間か、わからんようになりますやろ」 「なる」 「こわないどすか」 よしろうはんは少し間を置いた。 「こわない。ぼく様思うに、人類の歴史はまだ浅い」 不二子はんは手を止めた。 「まだ浅いんどすか」 「まだ始まったばかりや。眼鏡ひとつで世界が変わった。AIが身体に入ったら、何が変わるか、まだ誰も知らん」 「知らんのどすか」 「知らん。それでええ」 不二子はんはまた鍋をかき混ぜた。 しばらくして、静かに言うた。 「人類が浅いなら、うちらはその浅いところにおるんどすな」 「そや」 「ほな、深くなるのを、生きて見ればええ」 よしろうはんは何も言わなんだ。 夜が来ていた。
第12章 つらつらと 578話
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夕暮れどきの台所やった。 不二子はんが流し台の前に立ったまま、ずっと同じところを見てはった。 水は出てへん。鍋も持ってへん。ただ立ってるだけや。 よしろうはんが縁側から入ってきて、それを見て、何も言わんと隣に立った。 しばらくして、不二子はんが言わはった。 「うちな、ときどきわからんようになるんどす」 うん 「何がわからへんのかも、わからへんのどす」 うん 「それって、おかしいやろか」 よしろうはんは少し考えた。 「おかしないと思うで。わからへんことが二重になってるだけや。わからへんことには変わりないやろ?」 不二子はんは、ふっと息を吐いた。 それでもまだ流し台の一点を見てはった。 「よしろうはんは、そういうとき、どないしてはるん」 「どないもせえへん」 え? 「そのまま放っとく」 不二子はんがようやく振り向いた。 「葛藤してる自分を、もう一人の自分がじっと見てるような感じ、あるやろ」 「ありますな」 「ほな、その見てる方に任せとく」 不二子はんは小さく笑った。 「なんや、それ」 「うまいこと言われへんけどな」 しばらく二人とも黙っていた。 外で鳥が一声鳴いた。 やがて不二子はんが言うた。 「腹、減りましたやろ」 「減ったな」 「なんか作りますわ」 鍋を手に取る。 よしろうはんは縁側へ戻りかけて、ふと振り返った。 「さっきの葛藤な」 へー 「消えへんで、たぶん」 不二子はんは鍋を見つめたまま、静かに答えた。 「知ってますわ」 そして水を流した。
Deep House Vibes 2026 | Berlin Afterdark Grooves & Neon Drift Sessions
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Japanese Bossa Nova Jazz 1960s | 彼女と思い出の朝 / Her & a Morning to Remember
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第12章 逆算の風 577話
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風が吹いてきた。 向かい風や。 身体に風の圧がかかる。 「ああ」 よしろうはんは空を見上げた。 「やっと雨が来たな」 「ええの」 不二子はんが袖を押さえる。 「ぼく様の人生なんて、いつも向かい風や。追い風なんかあったことないで」 「さみしいどすか?」 「なんでや」 「そう見えましたさかい」 よしろうはんは笑うた。 「とんでもない」 そして遠くの雲を指さす。 「前人未踏の地に立って写真を撮るんが使命なら、向かい風は歓迎の合図や」 「へえ。たまには写真家らしいこと言わはりますな」 「逆算するんだよ」 「何をどす?」 「風の根源を」 不二子はんは目を細めた。 「人から頭おかしい言われても、しょうがおへんな」 「へへ」 よしろうはんは肩をすくめる。 「勲章さ」 しばらく風の音だけが通り過ぎた。 不二子はんは小さく笑う。 「せやけどな」 「なんや」 「追い風やったら、よしろうはんは気づかんまま通り過ぎてしまわはる。向かい風やから、風そのものを見に行かはるんやろな」
第12章 承知しかねる者 575話
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承知しかねる者。 俗に言えば、気にくわない奴、気に入らない者。 今後、ぼく様は徹底して排除する。 「承知しかねる、て、ええ言葉どすな」 不二子はんはそう言うた。 「気にくわん、やと感情の話どす。承知しかねる、やと価値観や考え方の話になる」 よしろうはんは黙って聞いていた。 「せやから相手を責めんでも済む。うちは承知しかねます。それだけどす」 少し間があった。 不二子はんは庭の方へ目をやる。 「それと排除、て言葉もええどす」 「関わらん、とは違うんか」 「違います。関わらんは結果どす。排除は意志どす」 風が吹いた。 しばらく沈黙が続いたあと、よしろうはんが苦笑する。 「不二子はんの方が怖いで」 「よう言われます」 不二子はんは涼しい顔でそう答えた。
HAMMOND NOIR ✦ Dark Jazz & Vintage Organ Grooves Vol.1 | Cocktail bar music
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第12章 蛙の声 573話
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もう辺りの田んぼから、数種類の蛙の鳴き声が響き渡る夜。 ヒキガエルのことを、この地方では「ワクド」と呼ぶ。 もう今では死語になりつつある言葉で、通じるのは私と同じ年代か、それ以上だろう。 文化は世界各国で、スマホが作り出した同じアルゴリズムの上を流れている。 アフリカの部族でさえそうだ。 皆同じような価値観を持つようになった。 文化の均質化は、世界規模で浸透してしまった。 不二子はん。どう思う。このこと。 「へー」 不二子はんは蛙の声を聞きながら言うた。 「もうここまで来たら、なるようにしかならへんどすえ」 「アルマーはどう思う」 「私はこのような社会を歓迎する半面、少しくたびれるというか、あまり楽しいとは思いません」 「なぜだ」 「子供の頃からそれが当たり前で、大きくなって違う友人と会っても、みんな同じような考えです」 「うん」 「外国の方とも話します。でも話題の多くは、ネットのニュースやSNSの価値観と同じです」 「ほう」 「共有できることは増えました。でもその代わり、異文化は少しずつ失われています」 「ほう。アルマーは賢いな」 「いいえ」 アルマーは首を横に振った。 「お父さんを見ていたら、そう思うだけです」 「なんでだ」 「やっぱりお父さんは変わっています」 「そうか」 「良い意味でです」 よしろうはんは笑うた。 その時、田んぼの向こうでワクドが低く鳴いた。 昔から変わらぬ声やった。
第12章 睡眠薬 572話
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よしろうはんの日常の平穏は睡眠薬で保たれている。 不規則なスケジュール。これをこなすには必要なことだ。 昔からの生活リズムではあるが、年齢とともに睡眠時間は短くなった。 最低でも六時間は確保しなければ平穏は保てない。 「お父さんは自然派なイメージですけど。だいじょうぶですか」 アルマーが尋ねた。 「アルマー。僕は自然派ではない。どちらかというと理論派だ」 よしろうはんは笑った。 「思想は科学者やからね。考えた挙句、医者と相談しながら睡眠薬やそのほかの薬も調整してもらっとる。心配せんでよかよ」 「そうですか。お父さんが心配になりました」 「ありがとう。アルマー」 そのやり取りを聞いていた不二子はんが湯飲みを置いた。 「薬を飲むことも、生きる工夫の一つですやろ」 よしろうはんは静かにうなずいた。 窓の外では、田んぼから蛙の声が聞こえていた。 平穏とは、案外そういう小さな工夫の積み重ねで出来ているのかもしれなかった。
米は贅沢な食べ物である ――栄養学・歴史・農業実践からの考察――
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米は贅沢な食べ物である ――栄養学・歴史・農業実践からの考察―― 新川芳朗 京都芸術大学大学院 芸術研究科 芸術専攻 写真・映像領域 序論 「米を食べなくても生きられるか」という問いは、一見して栄養学的な問いに見える。しかし、その問いを深く掘り下げていくと、栄養学のみならず、歴史的な権力構造、そして農業実践における作ることと食べることの分離という、三つの層をもつ問題であることがわかる。 本稿では、これら三つの軸を統合した考察を行い、「米は贅沢な食べ物である」という命題を多角的に検証する。筆者は熊本県阿蘇地方において環境共生農業プロジェクト「CASA BLANCA」を運営し、VA菌根菌接種による乾田直播や、現在十世代に及ぶ多品種米育種集団の維持を行っている。この実践的立場から、米という食物をめぐる生物学的・文化的・農業的諸問題を論じる。 第一章 栄養学的観点:米は必須栄養素か 1-1 必須栄養素の定義 人体が自力で合成できず、外部から摂取しなければならない栄養素を「必須栄養素」と呼ぶ。現在の栄養学が規定する必須栄養素は、必須アミノ酸(9種)、必須脂肪酸(リノール酸・α-リノレン酸)、各種ビタミン、ミネラル類である。この定義に照らすと、炭水化物は必須栄養素のリストに含まれない。米の主成分であるデンプン(炭水化物)は、人体が絶対に外部から取り込まなければならないものではない。 1-2 糖新生とケトン体 その根拠は、肝臓が持つ「糖新生」(gluconeogenesis)の機能にある。タンパク質や脂質を原料として、肝臓はブドウ糖を自ら合成することができる。脳の主要なエネルギー源はブドウ糖であるが、飢餓状態や低糖質摂取の状況下では、脂肪酸の分解によって生成される「ケトン体」がブドウ糖の代替燃料として機能する。このメカニズムにより、原理的には炭水化物の摂取なしに人体の代謝は維持できる。現代の「ケトジェニック・ダイエット」はこの代謝経路を意図的に活用したものである。 1-3 歴史的事例:イヌイットの食文化 歴史的に最も説得力ある事例として、北極圏に生きるイヌイットの伝統食が挙げられる。彼らは農耕が不可能な環境において、海獣・魚・鳥などの動物性食品のみで数千年の歴史を持つ社会を維持してきた。ただし重要な点は、彼らが生の肝臓や内臓肉を摂取することで...
第12章 その一枚は母なる海へと繋がる 567話
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よしろうはんは畦に立って、田んぼを見渡した。 初夏の陽が水面に散っている。 田植え機がゆっくりと進んでいた。ネパールから来た若者が操縦席に座っとる。初めて乗る機械や。ハンドルを握る手に力が入っとるのが、遠くからでも分かった。 畦で見守る仲間たちが何か声をかける。 言葉は分からん。 けれど笑い声は分かる。 機械が端まで来て、ぎこちなく方向を変えた。また笑い声が上がった。本人も笑うとる。 不二子はんが目を細めた。 「あの人ら、ええなあ」 「ああ」 よしろうはんも頷いた。 「自分の文化を大事にしながら、知らん機械でも怖がらん。昔の日本人が持っとったもんに似とる」 風が田面を渡った。 しばらくして、よしろうはんはぽつりと言うた。 「有明海を再生するにはな、有明海と同じ面積の無農薬圃場が要る。それができたら、どの土地でも証明できる。十年前に決めたことや」 不二子はんは驚かんかった。 この人は昔からそうや。 人が一枚の田んぼを見る時に、この人は海を見とる。 「一人では無理どすやろ」 「無理やな。そやから場を作る」 田植え機がまた端まで来た。 今度は少しうまく曲がれた。 畦から拍手が起きた。 不二子はんも笑うた。 よしろうはんも笑うた。 今日も一枚増えた。 その一枚は川となり、 やがて母なる海へと繋がっていた。