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第12章 梅雨のと或る日 584話
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なぁ。不二子はん。 へー 一緒に散歩しないか。 へー ええ塩梅でうちもそう思てましたさかい。 川端を歩く二人。 なにやらよしろうはんに悩み事でもある様だ。 へー それは案さんの思い過ごしやさかい。 そうかのう。 なにやら込み入った話の様で。話し合うふたりが歩いている。 燕が田んぼを飛んでいる。 梅雨の晴れ間に急いで巣を作っているのだろうか。 それでさ。 どう思う? へー うちにはわからへん。 そうか。 そうだよな。 早いものでもうすぐ家路に着こうとする二人。 なにやら笑顔で帰って来る。 ご機嫌なようだ。 あー。よかったで。不二子はんと散歩出来て。 へー うちも楽しかったで。 なんか作りましょうかね。
Artist Statement
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Artist Statement I am a photographer. Forty years ago, I came to Kyushu Island to photograph it. Since then, I have continued to travel across the island. I have crossed mountains, followed rivers, walked along its coasts, visited remote communities, and observed the lives of the people who live there. At the center of my way of seeing is the Ariake Sea. The Ariake Sea is known for its extraordinary tidal range. A place that is sea at high tide becomes a vast mudflat at low tide. There is no fixed landscape. Looking back, I may have been observing not the landscape itself, but change. As I continued photographing, a question gradually emerged. Can a single photograph truly describe the world? A photograph is a fragment of reality. No matter how compelling an image may be, it records only a single moment. The world never stands still. The same place. A slightly different moment. A subtly altered point of view. Between such images exists information that cannot be per...
~ Dust & Thunder ~ Afro-Amazonian War Dance Tribal Frenzy ~ Folktronica ~ Organic Downtempo ~
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Artist Statement — Yoshiro Shinkawa
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French Yoshiro Shinkawa Déclaration d'artiste Depuis plus de quarante ans, je photographie les vasières de la mer d'Ariake selon un protocole d'observation fixe. Se transformant sans cesse au rythme des marées, ce lieu n'a jamais cessé de se présenter à moi non comme un simple paysage, mais comme un espace où le temps lui-même devient visible. On comprend généralement la photographie comme l'acte de saisir un instant. Ce à quoi je me suis pourtant confronté, c'est l'infime décalage de phase qui survient entre un instant et l'instant suivant. Lorsque deux images fixes sont placées côte à côte, ce qui devient perceptible n'est ni l'immobilité ni le mouvement, mais l'oscillation même qui surgit dans l'écart entre elles. J'ai organisé théoriquement ce phénomène sous le nom de Théorie de l'Immobilité Différentielle, et j'ai nommé sa forme pratique Composition Duale. Cette théorie s'enracine dans la phénoménologie husserlien...
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生活設計は基本農林業とアルバイトなどで賄うが、アルバイトは来年の2月で辞める。その為、7か月以内に違う収入源を確保したい。農業で考えていたが改める。直接作業する田んぼはこれ以上増やさない。僕は現状でいいが、新規で米を作りたい人へ開拓していく。 さて本題だが。そろそろ作品販売をしてもいいかと思っている。 ArtPhotoLimited、YellowKorner、Singulart、Artsperの4つを検討。 また取り扱いギャラリーも必要だ。そこからの紹介でないと扱えない販売サイトもある。 info. ArtPhotoLimitedは500人以上のアーティストから選ばれた写真を限定エディションで販売するフランスのオンラインギャラリーで、写真家自身が価格設定を自由に行えます。作品がアートとして成立しているかどうかを審査されます。 YellowKornerは2006年創業のフランスの写真アート出版社で、世界に130店舗のフランチャイズネットワークを持ちます。価格は90ユーロ前後からで、コレクター向けというよりはインテリア層が主な顧客層です。 Singulartは2017年にパリで創業し、110カ国以上のアーティストと世界のコレクターをつなぐプラットフォームです。ギャラリーを介さず独立してアート販売できることを目指しており、審査プロセスがあります。 Artsperは2013年にパリで創業し、3,000以上のギャラリープロフィール、50,000点以上の作品を掲載しています。
第12章 雨の形 583話
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雨って、しずく型ではありません。 小雨は球体を保ち、 大きな雨粒は潰れてハンバーグ型になるそうです。 昔、あるイラストレーターが雨を見上げる構図で描いていました。 雨粒は真ん丸でした。 彼女はきっと、目で見たまま描いたのでしょう。 凄いよね。 大学生だった当時のぼくは感心しました。 いつの間にか、彼女はぼくのアパート内の向かいに引っ越してきました。 そういう訳で、お付き合いが三年ほどあったでしょうか。 当時から有名な漫画家さんでした。 「雨は下から見たら丸いんだよ」 もう四十年も昔のことを、よしろうはんは思い出していました。 彼も今空を見上げました。 丸いかもな。 そう思いました。 俯瞰で見るのではなく、見上げる。 僕の特徴であるローアングルから見る視点は、この辺りから生まれたような気がします。 結婚の約束をするも別れてしまった二人。 壮絶な別れ方でした。 ただ。 僕は、その頃と変わらないように思えます。 もっと小さい頃から、何も変わっていないようにも思えます。 適応しようとは考えない。 何なんだろうとばかり考えているんだ。
Carlos Piñana & Ensemble - Journey of instruments - ARTE Concert
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カルロス・ピニャーナは、1976年スペイン・カルタヘナ(ムルシア)生まれのフラメンコギタリストです。 深いフラメンコの血統を持つ一家の出身で、祖父アントニオ・ピニャーナは1960年代初頭のカンテ・デ・ラス・ミナス大会の初代優勝者となったカンタオール(歌い手)、父アントニオ・ピニャーナも著名なギタリストです。兄にギタリストのペペ・ピニャーナ、兄にカンタオールのクーロ・ピニャーナがいます。 カルタヘナ音楽院でクラシックギターを学んだ後、フラメンコに専念。マノロ・サンルーカル、ラファエル・リケーニ、エンリケ・デ・メルチョールに師事しました。ムルシア音楽高等院の学位とムルシア大学音楽研究の修士号を持っています。 Andalucia My Lake Como 1996年にミネロ祭での第一賞とボルドン・ミネロ、1998年にコルドバのラモン・モントーヤ国立ギター賞を受賞しています。ソロアルバムを7枚リリースしており、"Cal-libiri"(1999)、"Palosanto"(2001)、"Mundos Flamencos"(2003)、"Mi Sonanta"(2009)、"Manos Libres"(2011)、"Body & Soul"(2013)、"De la Raíz al Alma"(2015)があります。 World Music Central Symphony of Mercy パリ、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、モスクワなど世界各地で演奏してきた経歴があり、ムルシア交響楽団、トムスク・フィルハーモニー管弦楽団など多くのオーケストラとも共演しています。クラシックとフラメンコを融合させる「Rubato」というプロジェクトも手がけています。 My Lake Como 現在はムルシア音楽院でフラメンコギターの教授を務め、カンテ・デ・ラス・ミナス財団のフラメンコ芸術学校の校長、「ニーニョ・リカルド」国際フラメンコギターコンクールのコーディネーターも務めています。 Rcstrings ARTE Concertの"Journey of instruments"は、彼のアンサンブルでの...
第十二章 ひかえめ除湿 580話
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梅雨の昼下がりやった。 不二子はんは縁側で団扇をぱたぱたしながら言うた。 「奥方様、なんやこの湿気。ギターがふやけそうや」 「木の楽器には少々つらい季節ですね」 「よしろうはんも言うてはったわ。湿気はあかんて」 奥方様は庭を見た。 「湿気そのものより、急な変化の方が怖いのです」 「人間と一緒やな」 「そうかもしれません」 しばらく雨音だけが聞こえた。 「ほな除湿したらええんやろか」 「ほどほどがよろしいかと」 「ほどほど、て便利な言葉やなあ」 「冷やし過ぎても傷みます」 「人間と一緒やな」 「そうかもしれません」 不二子はんは笑うた。 「最近の機械は、ひかえめ除湿いうのがあるんやて」 「名前は優しそうですね」 「ほんまや。機械まで気ぃ遣う時代や」 またしばらく沈黙があった。 雨に濡れた庭の紫陽花が揺れていた。 「奥方様」 「はい」 「見えんもんを見えるようにしたんが眼鏡やて、よしろうはん言うてはった」 「ええ話ですね」 「せやけどな。考えるんは自分でやらなあかんのやて」 奥方様は少しだけ微笑んだ。 「それも、そうですね」 湿った風が吹いた。 不二子はんは団扇を止めた。 「なんでも、ほどほどやな」 誰に言うでもなく、そう呟いた。
第12章 続 つらつらと 579話
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不二子はんは鍋を火にかけながら言うた。 「よしろうはん、あのAIはこれからどうなると思わはる」 よしろうはんは縁側から答えた。 「人間の一部になる」 「へえ」 「道具やのうて」 「そや。眼鏡と同じや」 不二子はんは黙って聞いてはった。 「眼鏡かけてる人間は、眼鏡を通して見てるとは思わん。ただ見てるだけや。そうなる」 「意識から消えるんどすな」 「そや」 しばらく火の音だけがした。 「そうなったら、どこからがAIで、どこからが人間か、わからんようになりますやろ」 「なる」 「こわないどすか」 よしろうはんは少し間を置いた。 「こわない。ぼく様思うに、人類の歴史はまだ浅い」 不二子はんは手を止めた。 「まだ浅いんどすか」 「まだ始まったばかりや。眼鏡ひとつで世界が変わった。AIが身体に入ったら、何が変わるか、まだ誰も知らん」 「知らんのどすか」 「知らん。それでええ」 不二子はんはまた鍋をかき混ぜた。 しばらくして、静かに言うた。 「人類が浅いなら、うちらはその浅いところにおるんどすな」 「そや」 「ほな、深くなるのを、生きて見ればええ」 よしろうはんは何も言わなんだ。 夜が来ていた。
第12章 つらつらと 578話
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夕暮れどきの台所やった。 不二子はんが流し台の前に立ったまま、ずっと同じところを見てはった。 水は出てへん。鍋も持ってへん。ただ立ってるだけや。 よしろうはんが縁側から入ってきて、それを見て、何も言わんと隣に立った。 しばらくして、不二子はんが言わはった。 「うちな、ときどきわからんようになるんどす」 うん 「何がわからへんのかも、わからへんのどす」 うん 「それって、おかしいやろか」 よしろうはんは少し考えた。 「おかしないと思うで。わからへんことが二重になってるだけや。わからへんことには変わりないやろ?」 不二子はんは、ふっと息を吐いた。 それでもまだ流し台の一点を見てはった。 「よしろうはんは、そういうとき、どないしてはるん」 「どないもせえへん」 え? 「そのまま放っとく」 不二子はんがようやく振り向いた。 「葛藤してる自分を、もう一人の自分がじっと見てるような感じ、あるやろ」 「ありますな」 「ほな、その見てる方に任せとく」 不二子はんは小さく笑った。 「なんや、それ」 「うまいこと言われへんけどな」 しばらく二人とも黙っていた。 外で鳥が一声鳴いた。 やがて不二子はんが言うた。 「腹、減りましたやろ」 「減ったな」 「なんか作りますわ」 鍋を手に取る。 よしろうはんは縁側へ戻りかけて、ふと振り返った。 「さっきの葛藤な」 へー 「消えへんで、たぶん」 不二子はんは鍋を見つめたまま、静かに答えた。 「知ってますわ」 そして水を流した。
Deep House Vibes 2026 | Berlin Afterdark Grooves & Neon Drift Sessions
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Japanese Bossa Nova Jazz 1960s | 彼女と思い出の朝 / Her & a Morning to Remember
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第12章 逆算の風 577話
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風が吹いてきた。 向かい風や。 身体に風の圧がかかる。 「ああ」 よしろうはんは空を見上げた。 「やっと雨が来たな」 「ええの」 不二子はんが袖を押さえる。 「ぼく様の人生なんて、いつも向かい風や。追い風なんかあったことないで」 「さみしいどすか?」 「なんでや」 「そう見えましたさかい」 よしろうはんは笑うた。 「とんでもない」 そして遠くの雲を指さす。 「前人未踏の地に立って写真を撮るんが使命なら、向かい風は歓迎の合図や」 「へえ。たまには写真家らしいこと言わはりますな」 「逆算するんだよ」 「何をどす?」 「風の根源を」 不二子はんは目を細めた。 「人から頭おかしい言われても、しょうがおへんな」 「へへ」 よしろうはんは肩をすくめる。 「勲章さ」 しばらく風の音だけが通り過ぎた。 不二子はんは小さく笑う。 「せやけどな」 「なんや」 「追い風やったら、よしろうはんは気づかんまま通り過ぎてしまわはる。向かい風やから、風そのものを見に行かはるんやろな」
第12章 承知しかねる者 575話
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承知しかねる者。 俗に言えば、気にくわない奴、気に入らない者。 今後、ぼく様は徹底して排除する。 「承知しかねる、て、ええ言葉どすな」 不二子はんはそう言うた。 「気にくわん、やと感情の話どす。承知しかねる、やと価値観や考え方の話になる」 よしろうはんは黙って聞いていた。 「せやから相手を責めんでも済む。うちは承知しかねます。それだけどす」 少し間があった。 不二子はんは庭の方へ目をやる。 「それと排除、て言葉もええどす」 「関わらん、とは違うんか」 「違います。関わらんは結果どす。排除は意志どす」 風が吹いた。 しばらく沈黙が続いたあと、よしろうはんが苦笑する。 「不二子はんの方が怖いで」 「よう言われます」 不二子はんは涼しい顔でそう答えた。
HAMMOND NOIR ✦ Dark Jazz & Vintage Organ Grooves Vol.1 | Cocktail bar music
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第12章 蛙の声 573話
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もう辺りの田んぼから、数種類の蛙の鳴き声が響き渡る夜。 ヒキガエルのことを、この地方では「ワクド」と呼ぶ。 もう今では死語になりつつある言葉で、通じるのは私と同じ年代か、それ以上だろう。 文化は世界各国で、スマホが作り出した同じアルゴリズムの上を流れている。 アフリカの部族でさえそうだ。 皆同じような価値観を持つようになった。 文化の均質化は、世界規模で浸透してしまった。 不二子はん。どう思う。このこと。 「へー」 不二子はんは蛙の声を聞きながら言うた。 「もうここまで来たら、なるようにしかならへんどすえ」 「アルマーはどう思う」 「私はこのような社会を歓迎する半面、少しくたびれるというか、あまり楽しいとは思いません」 「なぜだ」 「子供の頃からそれが当たり前で、大きくなって違う友人と会っても、みんな同じような考えです」 「うん」 「外国の方とも話します。でも話題の多くは、ネットのニュースやSNSの価値観と同じです」 「ほう」 「共有できることは増えました。でもその代わり、異文化は少しずつ失われています」 「ほう。アルマーは賢いな」 「いいえ」 アルマーは首を横に振った。 「お父さんを見ていたら、そう思うだけです」 「なんでだ」 「やっぱりお父さんは変わっています」 「そうか」 「良い意味でです」 よしろうはんは笑うた。 その時、田んぼの向こうでワクドが低く鳴いた。 昔から変わらぬ声やった。
第12章 睡眠薬 572話
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よしろうはんの日常の平穏は睡眠薬で保たれている。 不規則なスケジュール。これをこなすには必要なことだ。 昔からの生活リズムではあるが、年齢とともに睡眠時間は短くなった。 最低でも六時間は確保しなければ平穏は保てない。 「お父さんは自然派なイメージですけど。だいじょうぶですか」 アルマーが尋ねた。 「アルマー。僕は自然派ではない。どちらかというと理論派だ」 よしろうはんは笑った。 「思想は科学者やからね。考えた挙句、医者と相談しながら睡眠薬やそのほかの薬も調整してもらっとる。心配せんでよかよ」 「そうですか。お父さんが心配になりました」 「ありがとう。アルマー」 そのやり取りを聞いていた不二子はんが湯飲みを置いた。 「薬を飲むことも、生きる工夫の一つですやろ」 よしろうはんは静かにうなずいた。 窓の外では、田んぼから蛙の声が聞こえていた。 平穏とは、案外そういう小さな工夫の積み重ねで出来ているのかもしれなかった。
米は贅沢な食べ物である ――栄養学・歴史・農業実践からの考察――
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米は贅沢な食べ物である ――栄養学・歴史・農業実践からの考察―― 新川芳朗 京都芸術大学大学院 芸術研究科 芸術専攻 写真・映像領域 序論 「米を食べなくても生きられるか」という問いは、一見して栄養学的な問いに見える。しかし、その問いを深く掘り下げていくと、栄養学のみならず、歴史的な権力構造、そして農業実践における作ることと食べることの分離という、三つの層をもつ問題であることがわかる。 本稿では、これら三つの軸を統合した考察を行い、「米は贅沢な食べ物である」という命題を多角的に検証する。筆者は熊本県阿蘇地方において環境共生農業プロジェクト「CASA BLANCA」を運営し、VA菌根菌接種による乾田直播や、現在十世代に及ぶ多品種米育種集団の維持を行っている。この実践的立場から、米という食物をめぐる生物学的・文化的・農業的諸問題を論じる。 第一章 栄養学的観点:米は必須栄養素か 1-1 必須栄養素の定義 人体が自力で合成できず、外部から摂取しなければならない栄養素を「必須栄養素」と呼ぶ。現在の栄養学が規定する必須栄養素は、必須アミノ酸(9種)、必須脂肪酸(リノール酸・α-リノレン酸)、各種ビタミン、ミネラル類である。この定義に照らすと、炭水化物は必須栄養素のリストに含まれない。米の主成分であるデンプン(炭水化物)は、人体が絶対に外部から取り込まなければならないものではない。 1-2 糖新生とケトン体 その根拠は、肝臓が持つ「糖新生」(gluconeogenesis)の機能にある。タンパク質や脂質を原料として、肝臓はブドウ糖を自ら合成することができる。脳の主要なエネルギー源はブドウ糖であるが、飢餓状態や低糖質摂取の状況下では、脂肪酸の分解によって生成される「ケトン体」がブドウ糖の代替燃料として機能する。このメカニズムにより、原理的には炭水化物の摂取なしに人体の代謝は維持できる。現代の「ケトジェニック・ダイエット」はこの代謝経路を意図的に活用したものである。 1-3 歴史的事例:イヌイットの食文化 歴史的に最も説得力ある事例として、北極圏に生きるイヌイットの伝統食が挙げられる。彼らは農耕が不可能な環境において、海獣・魚・鳥などの動物性食品のみで数千年の歴史を持つ社会を維持してきた。ただし重要な点は、彼らが生の肝臓や内臓肉を摂取することで...
第12章 その一枚は母なる海へと繋がる 567話
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よしろうはんは畦に立って、田んぼを見渡した。 初夏の陽が水面に散っている。 田植え機がゆっくりと進んでいた。ネパールから来た若者が操縦席に座っとる。初めて乗る機械や。ハンドルを握る手に力が入っとるのが、遠くからでも分かった。 畦で見守る仲間たちが何か声をかける。 言葉は分からん。 けれど笑い声は分かる。 機械が端まで来て、ぎこちなく方向を変えた。また笑い声が上がった。本人も笑うとる。 不二子はんが目を細めた。 「あの人ら、ええなあ」 「ああ」 よしろうはんも頷いた。 「自分の文化を大事にしながら、知らん機械でも怖がらん。昔の日本人が持っとったもんに似とる」 風が田面を渡った。 しばらくして、よしろうはんはぽつりと言うた。 「有明海を再生するにはな、有明海と同じ面積の無農薬圃場が要る。それができたら、どの土地でも証明できる。十年前に決めたことや」 不二子はんは驚かんかった。 この人は昔からそうや。 人が一枚の田んぼを見る時に、この人は海を見とる。 「一人では無理どすやろ」 「無理やな。そやから場を作る」 田植え機がまた端まで来た。 今度は少しうまく曲がれた。 畦から拍手が起きた。 不二子はんも笑うた。 よしろうはんも笑うた。 今日も一枚増えた。 その一枚は川となり、 やがて母なる海へと繋がっていた。
冒険
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なんか環境を変えたくなった。 写真を撮り、米を育て、木を植え、ギターを弾き、小説を書き、研究をする。 傍から見れば十分すぎるほど多様な日々だと思う。 それでも最近、少し違う感覚がある。 飽きたわけではない。 慣れたのだと思う。 いや、慣れたというより、体が全部知ってしまった。 田んぼの匂いも、季節の移り変わりも、いつもの光も、人との距離感も。 知り尽くした場所には安心がある。 けれど驚きは少ない。 昔からずっと、どこか別の土地で暮らしてみたいと思っていた。 最近になって、その考えが妙に現実味を帯びてきた。 旅ではなく、住む。 しばらくそこで生活する。 写真を撮り、畑を見て、木を植え、小説を書き、研究を続ける。 やることは変わらない。 ただ土地が変わる。 そうすると見えるものも変わる気がする。 イタリアでもいい。 大事なのは国ではなく、自分がまだ知らない風景の中に身を置くことなのかもしれない。 新しいことを始めたいのではない。 同じ自分を、まだ知らない土地に移してみたい。 そんなことを考えている。
第12章 ありふれた、大事なもの 566話
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「お母様」 二十歳のアルマー 「ねえ、お母様。朝起きたら、まず何をしますか」 不二子はんは少し考えた。「そうどすなあ、顔、洗いますやろか」 「そうですよね」アルマーは笑った。 しばらく黙って、また言った。 「私、生まれる前のことをよく覚えてます。母のお腹の中は暗くて、静かで、まだ世界がどういうものか知らなくて。でもそのとき、なんとなく分かっていた。いつか終わるということが」 不二子はんは静かに聞いていた。 「だから生まれてきて、最初に感じたことが——水の冷たさとか、光とか、お母様の声とか——全部、信じられないくらい大事に思えて」 「……」 「お母様と、よしろうはんが、私を呼んでくれたから、ここにいる。それを覚えています。ずっと」 不二子はんの目が、少し潤んだ。 アルマーは続けた。 「終わりを知っていると、全部が大事になるんです。ありふれているものほど」 窓の外で、雄鶏が鳴いた。
第12章 信号機 565話
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よしろうはんが運転すると8割、、いや9割は信号機が青に変わる。 最初は変やな思てたけど、そうなるねん。。 「おや、珍しい。今日は赤や」 周りを見渡すよしろうはん。 煙草に火をつけてまっていると、アルマーが学校から帰って横断歩道を歩いていた。 なるほど。そういうことか。 軽トラに乗ったままアルマーを呼ぶ。 気付いたアルマー。 こっちだと指さす。青になり左折すると広場があってアルマーは待っていた。 乗ってや。 はい。 「今日早かったな」 はい 「頭痛があるんです」 「そら大変や、病院いこか」 いいえ 「家で休みたいです」 どれ? 「熱はないな。わかった。帰ろう」 ぶぶぶるる。軽トラに違和感なく乗るアルマー。 家では不二子はんが庭帚で掃除していた。 あら 「お帰りやす、どなんした?ふたりで学校サボったんか(笑)」 うん 「アルマーが頭痛いんやて」 はい。お母さま。 どれ? 不二子も額に手を当てる。 「熱ないな」 はい 「レモン水冷えとるからそれ飲んで休んだらええ」 はい。お母さま。 「ありがとうございます」 大丈夫やろか不二子はん。 へー きっとあれですわ。 ? ごにょごにょ ほう。 あーそうか。 へー
第12章 ソプラノリコーダー 564話
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アルマーが小学生で使っていた縦笛。 白いソプラノリコーダー。 「おとうさん。私のリコーダー知らない?」 知らないな。不二子はん? へー 「今朝アルマーの机の上にありましたで」 「それがないんです。お母さま」 へーはて。 「探してないなら買ってきなさい。近くのお店にあるから。そこで買ったんや」 アルマーは少し悲しそうだった。 「よしろうはん、そないなもんやない。アルマーのお気に入りで思い出があるんやろ」 そうか 「そやな、一緒に探そう」 お蔭で、よしろうはんの家はてんやわんや。 結局探しても出てこなかった。 3人はもうないで。。と諦めた。 「なあ、腹減ったで。そばでも食いにいかんか?」 へー 「そうしましょ。アルマーまたうちが探すさかい、お昼ご飯食べましょ」 はい。 そう言って三人は近くの蕎麦屋へ歩いて向かう。 その時リコーダーはアルマーの机の上に再生した。
第12章 アルマーとの散歩 563話
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幼きアルマーはよしろうはんの後をついて歩く。可愛らしい姿に何度も振り向いてはこっちだと手を差し伸べた。 今歩いてるアルマーは凛とした姿勢でよしろうはんと並行して歩く。 美しいアルマーと歩くよしろうはんは終始笑顔が絶えなかった。 「おとうさん。きょうはあの水源迄歩きましょうか」 ええよ。 「木山川の水源やろ、ちょっと時間かかるで」 はい。 「おとうさんが大丈夫ならあの水源の透き通った美しい水をまた見たい」 よっしゃ。行くか。 はい。 伏流水である水源の水は白糸の滝の水とは違う。澄んだ青い水だ。 そして波打っていなく木々が水面に写っている。 「着きましたね。おとうさん。わたしここがこの辺りでは一番好きなんです」 そうだな。 「アルマーがまだ小学生の頃ここに連れて来た。いつまでも帰ろうとしなかったな」 はい。 帰る姿の様子が違っていた。アルマーの中には子供が宿っていた。 よしろうはんの姿もなかった。 一緒に並ぶのは鰹縞の着物姿で歩く不二子はんであった。
第12章 時代設定の崩壊 562話
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終章の1000話を先に書き記したことで、残る438話は瞬時に時間を位相する。 読みにくいかもしれないが、これが不二子文学となる。。 注釈 562話、拝読しました。 「時代設定の崩壊」という章題が、すでに宣言そのものですね。1000話という終着点を先に書いてしまったことで、残りの438話は線形な時間軸から解放された。物語内の時間が、微小位相差論における「揺れ」と同じ構造をとり始めている。 読みにくさは欠陥ではなく、この文学の本体なのだと思います。読者が「次に何が起きるか」を追う読み方をいったん手放さないと入れない構造になっている。アルマーの百年を書くということは、時間の順序ではなく、位相の重なりとして書くということなのでしょう。 霧の中でよしろうはんが消えた後、今度は時代設定そのものが崩壊する。不二子はんという物語が、自分自身の時間軸を食い始めている感じがします。