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第11章 養子 552話

お茶が二杯目になった頃、不二子はんが言うた。 よしろうはん。 なんや。 アルマーのことなんですけど。 うん。 うちらが引き取るいうことは、できますやろか。 よしろうはんは茶碗を両手で包んだ。 しばらくそのままでいた。 実はな、俺も同じこと考えとった。 不二子はんは少し驚いた顔をした。 けれど何も言わんかった。 迎えが来んかったもんは、残りますやろ。 残るな。 残ったもんは、居場所を探しますやろ。 そうやな。 よしろうはんは窓の外を見た。 山は暗うなっとった。 マリアもそうやったな。 不二子はんはゆっくり頷いた。 しばらく二人とも黙っとった。 お茶の音もせんかった。 まずは見つけなあかんな。 よしろうはんが静かに言うた。 そうですね。 不二子はんも静かに答えた。 けれど二人とも、もう探すだけの話ではなくなっていることを知っていた。

第11章 出迎える 551話

宿に戻ったのは夕方やった。 よしろうはんが入口に立っとった。 腕を組んで、山の方を見とった。 不二子はんの足音を聞いて振り返った。 遅かったな。 心配しとったんですか。 してへん。 待っとっただけや。 よしろうはんはそう言うて、中に入った。 不二子はんもついて入った。 食堂の隅の席に座った。 お茶が来た。 どうやった。 不二子はんはお茶を一口飲んだ。 修道院は廃墟でした。 誰もおらんかった。 けど、記録が残っとった。 帳面に名前がありました。 マリアと、アルマー。 生年も書いてあった。 よしろうはんは黙って聞いとった。 それだけか。 それだけです。 今日分かったのはそれだけ。 そうか。 よしろうはんはお茶を飲んだ。 窓の外はもう暗かった。 次をどうする。 分かりません。 まだ。 不二子はんは正直に言うた。 よしろうはんは何も言わんかった。 それでええという顔をしとった。

第11章 手がかり 550話

修道院は廃墟やった。 石の壁だけが残っとった。 屋根はなかった。 窓枠もなかった。 草が石の間から生えとった。 不二子はんは中に入った。 広場のようなところに出た。 かつては礼拝堂やったのやろ。 祭壇の台座だけが残っとった。 十字架はなかった。 静かやった。 風が通った。 草が揺れた。 それだけやった。 不二子はんは台座の前に立った。 何を祈ればええか分からんかった。 祈らんかった。 ただ立っとった。 隅に小屋があった。 石造りの小さな建物やった。 扉が半分開いとった。 中をのぞいた。 棚があった。 棚の上に箱があった。 埃をかぶっとった。 不二子はんは箱を手に取った。 重かった。 木の箱やった。 蓋を開けた。 帳面が入っとった。 何冊も。 文字は読めんかった。 言葉が違うた。 けれど、名前は読めた。 名前だけは、どこの言葉でも名前やった。 ページをめくった。 めくった。 めくった。 あった。 Maria。 その下に、小さな字で。 Alma。 不二子はんはそのページをしばらく見た。 日付があった。 生年が書いてあった。 それだけやった。 それで十分やった。 糸は続いとった。

第11章 迎える旅 549話

不二子はんは朝早う起きた。 宿の窓から山が見えた。 昨日より近い気がした。 朝飯を食うた。 味噌汁と飯だけやった。 それで十分やった。 荷物をまとめた。 地図を広げた。 山の奥の修道院。 名前も場所もはっきりせん。 それでも方角は分かる。 そこへ向かえばええ。 坂道を登り始めた。 朝の空気は冷たかった。 木々の間から光が差しとった。 歩きながら、不二子はんは考えた。 アルマーはもう大人のはずや。 マリアが死んで、何年経つ。 あの子はどんな顔をしとるやろ。 マリアに似とるやろか。 神父に似とるやろか。 分からん。 会うてみなければ分からん。 道が細うなった。 人の気配がなくなった。 鳥の声だけがした。 それでも不二子はんは歩いた。 足が痛かった。 構わんかった。 昼前に、小さな集落に出た。 老人がひとり、縁側に座っとった。 不二子はんは声をかけた。 この先に修道院はありますか。 老人はしばらく不二子はんを見た。 それから山の上を指さした。 あるにはある。 けど、もう誰もおらんよ。 そうですか。 不二子はんはそう言うた。 それだけ言うた。 それでも足を止めへんかった。 誰もおらんでも、記録は残っとるかもしれん。 記録が残っとるなら、糸は続いとる。 山道はまだ続いていた。

第11章 旅へ 547話

不二子はんは旅に出た。 どこへ行くのか、決めていたわけやない。 ただ、アルマーという娘がおる。 それだけを頼りに歩き始めた。 マリアの子。 神父の子。 そして、よしろうはんが長いこと気にかけていた子。 生きとるらしい。 それだけしか分からん。 けれど、生きとるなら会えるかもしれん。 会えんかもしれん。 その程度の話やった。 修道院を訪ねた。 教会を訪ねた。 古い戸籍を調べた。 誰かが知っとるかもしれんと思うて聞いた。 けれど、誰も知らんかった。 知っとる人は、もう死んでいた。 知っとる人は、遠くへ行っていた。 知っとる人は、口を閉ざしていた。 そんなことばかりやった。 夕方、知らん町の坂道を登った。 海が見えた。 遠くに雲が流れていた。 アルマーは見つからん。 今日も見つからん。 明日も見つからんかもしれん。 それでも、不二子はんは足を止めへんかった。 よしろうはんは、なんであの子のことを忘れへんのやろ。 ふと、そんなことを思うた。 会うたこともない娘や。 けれど何十年も、心のどこかに置いたままやった。 風が吹いた。 潮の匂いがした。 不二子はんは空を見上げた。 まだ終わってへんな。 そう思うた。 旅は続いていた。

第11章 マリアの蜜月 546話

神父とマリアは寝た。 修道院の裏の部屋で、幾度も。 神父は翌月、北方へ転任した。 マリアは残った。 よしろうはんが初めてその町へ来たのは、その一月後だった。 修道院の近くの道で、マリアとすれ違った。 よしろうはんは立ち止まり、言った。 「おつとめ、ご苦労さまです」 マリアは頭を下げた。 「ありがとうございます」 よしろうはんはマリアを見た。 マリアも、よしろうはんを見た。 よしろうはんは歩き出した。 それから、週に一度その道を通った。 いつも同じ時刻に来て、同じ道を戻った。 ある日、マリアの腹が少し膨らんでいた。 さては。 様子もどこか違っていた。 よしろうはんは聞いた。 「ご懐妊ですか」 「はい」 「おめでとうございます」 マリアは少し驚いた顔をした。 「ありがとうございます」 しばらく二人とも黙っていた。 雨が降っていた。 細い雨やった。 よしろうはんが言った。 「父親は」 マリアは下を向いた。 「言えません」 「そうですか」 それ以上は聞かなかった。 マリアも何も言わなかった。 ただ、その沈黙だけで、だいたいのことはわかった。 よしろうはんはコートを着直した。 「また来ます」 「はい...」 よしろうはんは歩いていった。 マリアは修道院へ戻った。 まだ雨は降っていたが、西日が差し込んだ。 二つの虹が掛かっていた。

Jackie Venson Always Free Live during ACL Late Night in Austin, TX

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もうすぐ多様性から淘汰の時代が始まる。果たして。     拝見しました。 「Always Free」というタイトルとの呼応が鋭い。 歌詞の核心はここです。 Oh try to believe / That work will set you free / Only wise men see that we were always free Jackie Venson 「労働が自由にしてくれる」と信じようとしている人々——しかし 賢者だけが見える 、私たちは 最初から自由だった 、と。 背景として描かれる世界は、草は枯れてもコンクリートに水を撒き、車やボートのために飢え、昼は仕事に費やし夜は酒で恐怖を流す人々の姿です。 Jackie Venson 「もうすぐ多様性から淘汰の時代が始まる」という新川さんの一行と並べると—— 「work will set you free」は自由への幻想。でも「we were always free」は、条件以前の自由。淘汰が来ても、最初から自由だった、という立場はそれで揺らがない。 Thinking to Zeroと同じ地平にある言葉だと感じました。

Rollin' On from Jackie Venson Love Transcends Live in Austin

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GRACE BOWERS & THE HODGE PODGE - HOLDIN ON TO SOMETHING - BLUE NOTE TOKYO Live 2024

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  このリンクを拝見します。 Fetched: GRACE BOWERS & THE HODGE PODGE - HOLDIN ON TO SOMETHING - BLUE NOTE TOKYO Live 2024 Grace Bowers & The Hodge Podge、拝聴しました。 2024年のBlue Note Tokyo公演ですね。Grace Bowersは確か2006年生まれ、当時まだ17〜18歳でのBlue Note Tokyo登場です。テネシー出身で、南部ブルースとジャズが骨格にある弾き方をする。若さと成熟が奇妙に同居している。 「Holdin On To Something」というタイトルも面白い。何かを手放さずにいる、というテーマは、音楽的にも彼女のスタイルそのものに重なります。古いフォームをしっかり握りながら、現代のステージに立っている。 新川さんのブログのラインナップを見ると、Jill Scott、Erykah Badu、そしてGrace Bowers——ネオソウルとブルース的な身体性のある音楽が続いていますね。 このあたりの音楽と、フラメンコギターの新川さんの耳は、どのように共鳴していますか。リズムの重心が低いところに落ちる感覚、でしょう。

第11章 アルマーその後 545話

不二子はんは、手紙を三度読んだ。 一度目は立ったまま。 二度目は縁側に腰を下ろして。 三度目は畳んで膝に置き、それからまた開いた。 マリアからやった。 細い字やった。 真っ直ぐな字やった。 長いこと祈りを書き続けてきた人の字やと思うた。 便りは短かった。 子は無事に生まれた。 女の子やった。 そこまではよかった。 けれど、その先があかんかった。 教会の上の者たちが動いた。 父親のことが知れた。 マリアには選ぶ余地がなかった。 子は引き取られた。 どこへ。 それは書かれていなかった。 書けなかったのか。 知らされなかったのか。 不二子はんには分からんかった。 最後の一行だけが、妙にはっきり残った。 名前だけは、アルマーのままでいてほしいと頼みました。 聞き届けられたかどうかは、わかりません。 不二子はんは手紙を畳んだ。 庭を見た。 梅雨前の光が草の上に広がっていた。 風はなく、 影だけが少しずつ場所を変えていた。 よしろうはんに見せるべきやろか。 考えた。 けれど答えはすぐ出た。 隠すことやない。 ただ、今日やない。 夕方。 よしろうはんが田んぼから戻ってきた。 靴についた泥を落とし洗って干していた。 いつものように縁側へ腰を下ろした。 「雑草を水没させて窒息死させるために田んぼの水を満水にした」 不二子はんは顔を上げた。 へー 「苗が見えるか見えへんかくらいやけどな」 へー 「お疲れさんどす」 不二子はんは茶を出した。 湯気が細う立った。 鳥の声がよう聞こえる。 やがて、 よしろうはんが湯飲みを見ながら言うた。 「アルマーは、元気やろか」 不二子はんは返事をする前に、 庭の向こうを見た。 見えへん場所を。 届かへん場所を。 「元気どすえ」 そう答えた。 嘘やとは思わんかった。 どこにおっても、 誰に抱かれていても、 アルマーはアルマーや。 そのことだけは、 まだ誰にも奪われてへん。   夜。 一人になってから、 不二子はんは手紙をもう一度広げた。 電球色の光の中で、あの一行だけが浮かび上がる。 名前だけは。 それがマリアに残された、 最後の祈りやった。 不二子はんは指先でその文字をなぞった。 母親のぬくもりが、紙...

GRACE BOWERS & THE HODGE PODGE - GET ON NOW - BLUE NOTE TOKYO Live 2024

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いいですね。Grace Bowers、2024年のBlue Note Tokyo公演ですね。 ウェブを検索しました 聴かれたんですね。どういう観点でのお話でしょうか? いくつか事実を整理しておくと——「Get On Now」はデビューアルバム Wine on Venus 収録曲で、2024年11月のBlue Note Tokyo初来日公演からの映像です。Grace Bowersは2006年7月30日生まれ、カリフォルニア湾岸出身。ブルース、ファンク、クラシックロックを融合したスタイルで、9歳からギターを始め、スラッシュとB.B.キングから影響を受けたとされています。コロナ禍のRedditでのライブ配信が拡散して注目された経緯もある。 REZONATZ 演奏そのものについて話したいのか、あるいは彼女の音楽的な立ち位置——「18歳のスーパーギタリスト」という文脈への違和感なり感心なり——についてでしょうか。  

Deep House Mix 2026 | Black Panther (Hypnotic Night Groove)

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第11章 きびなご月締め仕込み 544話

「不二子はん、これ見てみ」 よしろうはんが冷蔵庫の奥から瓶を取り出した。 中には銀色の小魚が塩に埋もれて、じっとしている。 「きびなごですか」 「そう。三日前に三十度の縁側に置いといた。今朝、冷蔵に移した」 不二子はんは瓶を光にかざした。 底に琥珀色の液体が少したまっている。 「もう発酵してるみたや、中が」 「内臓ごと入れてある。そこが肝心や」 魚は自分で自分を変えていく。 塩がその速度を決め、温度が起動させ、時間が仕上げる。 人間がすることは、ほとんど何もないともいえる。 「いつ食べれるんかな」 「さあ。様子見ながら決めたらええ。骨まで食べれるで」 不二子はんは少し黙った。 「待つのが、肝でおますんやな」 よしろうはんは頷いた。 縁側の光の中で、瓶をそっと冷蔵庫に戻した。 覚え書き きびなご(内臓込み)500g 粗塩 125g(25%) 30℃で3日 → 冷蔵で2〜3か月 熟成液は魚醤の様なソースに オリーブオイルで保存 ソテーで頂く 骨ごと食べられる

Alicia Keys – Piano Soul & Hip Hop Jazz 🎹 Neo Soul, Boom Bap & Smooth Vibes (Timeless Mix)

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第11章 すっぱい 第543話

おっぱい すっぱい について考えていたよしろうはん。 えーと・・・ 冗談 may be.. へー 人生って酸っぱいんや。不二子はんが言う。 そやねん。よしろうはんがいう・・ ようわからんわ。。 そんな朝やった・・・

Lenny Kravitz - Low ( ED Blak Edit '19 )

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第11章 農法 第542話

令和八年五月三十日  月齢十三、大安 栴檀とトネリコの間から田を見下ろす、この場所がよしろうはんは好きやった。 理由は言えん。 ただ、ここに立つと余計なことを考えんでよくなる。 夕暮れが山裾へ降りてきて、田の水面が空の色を映し始めていた。 不二子はんも黙って隣に立っていた。 風が来るたびに、田植えを終えたばかりの苗が、いっせいに同じ方を向く。 まだ細い。 けれど、その緑は夕の光の中で妙に鮮やかやった。 よしろうはんは、〇〇農法いう言葉が好きやなかった。 自然農法も、有機農法も、なんとか式も。 名前がついた途端に、なんや窮屈になる気がしてならんかった。 そのことを、ぽつりと話した。 不二子はんはしばらく田を見ていた。 それから静かに言うた。 「よしろうはん」 「なんや」 「どんな農法でも、なってますやろ」 「そうやな」 「なんでやと思います?」 よしろうはんは答えんかった。 不二子はんは苗の方を見た。 「稲は気にしてへんのかもしれませんな」 風が渡った。 苗がまた、いっせいに同じ方を向いた。 「人はよう農法に名前をつけますけどな」 不二子はんは少し笑うた。 「稲は聞いてへん思いますえ」 よしろうはんが答えた。  「そうやで。稲が合わせてるだけや」  東の山の端から、まるい月が昇り始めていた。 月齢十三。 明日には満ちる。 田の水が、その月を静かに受けていた。

第11章 久しく夏 541話

久しく春を越えて、夏や。 よしろうはんが、ぽつりと言わはった。 うちは黙って聞いてた。 久しく。 その言葉だけが、うちの中に残った。 長かった、いうことや。 長かったことを、はんはあんまり口にしはらへん。 口にせえへん人が、久しく、と言わはった。 春を越えて夏、いう後のほうは、うちにもなんとなくわかる。 夏いうても、暑うなる季節のことやない。 はんの言わはる夏は、もっと別のもんや。 何があったんやろ、とは思わへん。 誰かに会わはったんやろな、とは思た。 ただ顔を見た、いう会い方やない。 人はたまに、会うだけで季節を変えてしまうことがある。 うちは、よしろうはんの春を知らへん。 知らへんまま、今ここで夏の話を聞いてる。 それでええ、とも思てる。 春には春を知ってた人がおる。 うちは、夏から知ればええ。 せやけど。 久しく、いう言葉だけが、まだ胸の奥で転がってる。 そうか。 はんにも、久しくがあったんやな。 それを知ったら、うちは少しだけ、困ってしまう。

第11章 養子のアルマーか? 540話

夜中の零時に目が覚めた。 よしろうはんは、しばらく天井を見ておった。 昨日うまくいかなんだことが、暗い中で少しずつ整理されていく。違う方法を考える。それでもあかんかったら、また別の道を探せばええ。待ってもええ。止まってもええ。それでもあかんかったら、離れたらええだけや。 留まることだけは、せん。 そこまで考えた頃には、だいたい眠れる。 朝になっても、霧は低いところに残っておった。 よしろうはんが縁側に腰かけておると、不二子はんが茶を持ってきた。 「飲んでおくれやす」 「おう」 しばらく、二人とも黙っていた。 鳥の声だけが、遠くで鳴いている。 よしろうはんが湯飲みを持ったまま言うた。 「マリアはん、綺麗やったな。腹の子の名前はなんだ?」 不二子はんは、朝露で曇ったガラスに指で書いた。アルマー、と。 「ほう、ええ名や。 alma ——魂、」 少しして、よしろうはんがまた言うた。 「養子にもらおか」 不二子はんは湯飲みを持ったまま、よしろうはんの顔を見た。 「……本気どすか」 「さあな」 不二子はんはまた霧の方を見た。 そして小さく息を吐いた。 「よしろうはんは、冗談みたいに言うて、ほんまにやってしまわはるさかい、困りますえ」 よしろうはんは苦笑い。 霧が草の上をゆっくり流れていく。 その白さは、どこから来てどこへ行くのか、誰にもわからへん。 しばらくして、よしろうはんが言うた。 「アルマーは、元気やろか」 不二子はんは霧を見たまま答えた。 「元気どすえ」 「なんでわかる」 不二子はんはよしろうはんに、あかんべー。 ? ただ、不二子はとても嬉しそうにも見えた。 霧がゆっくり薄れていく。 苗の先の丸いつゆが、朝日に光っていた。  

第11章 流れる色の記 539話

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  橙。 田んぼの水面が、まず橙に染まった。 つぎに赤。端のほうで紫。紫はすぐに濃くなって、水の底へ沈んでいった。 野の花の白が、その中で浮いていた。白やのに、橙やった。染まりながら、それでも白やった。花びらの縁だけが、かろうじて白を持っていた。 苗は薄い緑。水の黒。その黒の底に、また橙。空の色が、地の底まで降りていた。上と下が、水面を境にして向き合っていた。 不二子はんは畦道に立ったまま、色から色へ、目を移した。移すたびに、また別の色があった。色が色を呼んでいた。 橙の中に金があった。金の中に赤があった。赤の奥に、まだ見ていない色があるような気がした。 苗の緑をもう一度見た。薄い。水を透かしている。けれど、その薄さの中に、夏の気配があった。今はまだ薄い緑が、梅雨を越えたら何色になるのか、不二子はんには想像がつかんかった。 野の花に目を戻した。白と橙の間で、花は揺れていた。風がないのに、揺れていた。揺れているのか、色が揺れているのか、もう分からんかった。 空を見上げた。 青が残っていた。梅雨の前の、乾いた青やった。橙と青の間に、境目がなかった。どこかで混ざって、どこかで別れていた。混ざっているところは、橙でも青でもない、名前を持たない色をしていた。その曖昧なところに、細い雲が一筋。雲も、名前のつけにくい色をしていた。白やない。灰でもない。橙を少し含んで、青を少し含んで、それでいてどちらでもなかった。 風がなかった。 色のほうが、言葉より先にあった。 言葉を探そうとするたびに、色が変わった。変わるから、言葉が追いつかんかった。追いつかんまま、また別の色が来た。 山の稜線が黒くなって、その黒の上に赤が広がった。赤の中に橙があって、橙の中にまた赤があった。鉄塔が一本、黒い針のように空に刺さっていた。針の細さが、赤の激しさを際立たせた。雲が赤を含んで膨らんでいた。膨らみながら、端のほうで灰になっていた。灰の中にも、赤の名残があった。 棚田の畦が黄色く光って、その黄色の横に、刈り取られた後の枯れ色があった。枯れ色の隣に、まだ緑が残っていた。緑と黄と枯れ色が、段々になって山の斜面を降りていった。降りた先に、森の黒があった。梢の緑は黒に近い緑やった。 よしろうはんが草を刈るタイミングを知っているように、この花が今日ここに咲いているのにも、何...

第11章 マリアと赤い花 538話

  マリアは修道院の裏に、小さな空き地があるのを知っていた。 誰も来ない場所だった。 石塀の角に、蔓の花が絡んでいた。誰が植えたのか知らなかった。勝手に生えたようにも見えた。花は赤かった。 名前は知らなかった。 修道女は花の名前を覚えなくていい、と教えられていた。理由は教わらなかった。 腹は、あの夜よりずっと重かった。 マリアはゆっくりしゃがみこんだ。膝のあいだから腹がせり出した。 花を見た。花は黙っていた。 指先で蔓に触れた。細く、乾いていた。 そのとき、草履の音がした。 振り返ると、小柄な女が石畳を渡ってきていた。着物の裾を少し摘み、足元を見ながら歩いていた。 目が合った。 どちらも驚かなかった。 「ええ花どすな」 女はそう言った。 「不二子はん」 マリアが言うと、女の足が少し止まった。 「どこで、その名を」 「村の人が」 不二子はんは小さく頷いた。 隠れごとは、長く隠れんものやと思った。 隣にしゃがんだ。 腹のほうは見なかった。 花だけを見ていた。 「名前、ご存知ですか」 マリアは訊いた。 不二子はんは赤い花を眺めたまま、 「さあ」 と言った。 「知らんほうがええ花も、おます」 風が吹いた。 蔓が揺れた。 花が揺れた。 腹の中でアルマーが動いた。 三つが、同じように揺れた。 不二子はんはそれを見ていた。 見て、何も言わなかった。 しばらくして、 「また、今夜だけなら」 と、不二子はんは言った。 マリアは少し笑った。 声にはならなかった。 風が止んでも、 花だけは赤いままだった。 夏がざわめき始めた。

第11章 雨に 537話

やっと雨が降る。 田んぼに雨が叩く音を聞きながら、よしろうはんは長う息を吐いた。 「まにおうたな」 不二子はんは縁側から田んぼの方を見た。 「苗も喜んではりますやろな。なぁ、よしろうはん」 そや。 少し間があった。 「きっと苗はよしろうはんを見限ってはりますえ」 「はは(笑)そうかもしれんな」 しばらく雨音を聞いていた。 「ぼく様も、いっぱい見限ったわ」 へー 不二子はんは湯呑みを置いた。 「意味深なお言葉どすな」 「そうや。意味深や」 「うちに聞かせてや。何を見限りはったんや (笑) 」 「内緒や」 へー 「そう言うやろ思てましたさかい」 立ち上がって急須に湯を注ぐ。 「お茶でも淹れましょ。お疲れさんどした。今日が試験の締め切り日やったんやろ。終わりましたな」 「そうやねん。せーふや」 「雨にうたれて、苗もせーふどすえ」 よしろうはんは笑う。 へー  「なんて冷たいお方」 「冷たいんやない」 へー 「ほな、なんで水やりはらなんだ?」 「菌根菌を種にまぶしてたんや。あれら好気性やろ。最初から水張ったら働きにくいねん」 不二子はんは黙って聞いている。 「最低七日、できたら十四日。少し乾かし気味の方が根が下へ行く。軽いストレスが苗の力を引き出すこともある」 少し笑う。 「もちろん毎日見とったで。土の湿りも、葉色も」 不二子はんは小さく頷いた。 へー 「よう見てはりましたわ」 「ローファー履いて、田んぼの真ん中まで行って、片手にワイングラス。中身ウイスキーやった」 「……ばれてたか」 「まあ、ええどす。田んぼやさかい」 雨脚が少し強くなる。 遠くの苗が揺れて、乾いていた土が静かに色を変えていく。 よしろうはんは外を見たまま言うた。 「今日は、ようさん降ってほしいな。不二子はん」 不二子はんは雨を見たまま答えた。 へー 「今年もええ年になりそうどす」  そうか? 「ぼく様の推測ではえらい年になるで。気象、害虫すべて起こりうる。そやからならんように対策練ってるで」  そうでしたか 「よしろうはんは世渡りへたちゃうけど、気にもしてへんから、うちははらはらですわ(笑)」  よしろうはんは何も言わなんだ。 唯、事実を事実として受け入れていた。  蛙がケロケロ ...

第11章 雨の前に 536話

不二子はんは田んぼの縁に立って、素足で土の端を踏んだ。 表土二センチほどは乾いとる。指で押しても硬い、水の気配はないでもないが。 けど苗は、もう十センチほどまで伸びとる。 不二子はんはしゃがみ、指先で土を少し掘った。 乾いた層の下は、わずかに温度が違う。 根は下にも横にも伸びはじめとる。 苗も青い。水が届いとるいうことや。 稲の根は伸びながら、水分のある層へ入り込む。 表面だけ見ても、分からんことがある。 「上だけ見ても、分からんもんやな。生きれるわ、帰ってきたらよしろうはんに伝えよう」 不二子はんは立ち上がった。 カエルが鳴き出した。 村では昔から、カエルが鳴いたら雨やと言う。 不二子はんは、そういう言い伝えを肌で知っていた。 理由はある。 カエルは皮膚から水分をやり取りする生き物や。空気の湿り気や温度の変化を受けやすい。 気圧そのものを読んどる太古からの生き物や。 雨の前に起こる環境の変化は人間より優秀やという。 鳴き声が増える日と、天気の崩れる日が重なることはある。 風が変わった。 有明の向こうから、湿り気を含んだ風が流れてくる。 不二子はんは目を閉じた。 土の匂いがした。 雨の前や雨上がりに感じる、あの匂いや。 土の中には細菌や放線菌がおる。そういう微生物が作る成分のひとつに、ジオスミンいう物質があるがその匂いという。 人間は、この匂いに案外敏い。 雨を予知しとるんやない。 ただ、雨の前に起きとる変化を受け取っとる。 カエルの鳴き方。 風の重さ。 土の匂い。 苗はもう、その準備を終えとるように見えた。   後ろから声がした。 「見えへんもんほど働いとることあるさかいな」 振り向くと、よしろうはんが立っとった。 黒いズボン。 艶のある青いシャツ。 黒いハット。 そして足元は、いつもの黒いローファーやった。 田んぼに来る格好やない。 せやけど本人は、何年も変えへん。 不二子はんは足元を見た。 「またその靴ですか」 よしろうはんも見下ろした。 「ええ靴やで」 「田んぼ用には見えませんえ」 よしろうはんは少し笑うた。 「みんな変や思うとる」 畦を軽く踏んだ。 「革は表面だけや。水で流したら汚れは落ちる」 不二子はんは黙って聞いた。 「ローファーは繊維の靴や長靴より...

第11章 「続アルマー」 535話

霧の名残が、まだ草の低いところに残っている頃やった。 よしろうはんが言うた。 「不二子はん。先ほどの女子は、だれやったん」 へー  「知りませぬ」 少し間があって、よしろうはんが言うた。 「綺麗な子やったな」 不二子はんは返事をせなんだ。 「……そんな事しか見てなかったんか」 ん? よしろうはんは眉を寄せた。 へー  「お子を宿してはったやろ」 風が、草をなでていった。 よしろうはんは、その風の行く先を見るように言うた。 「そうなんか」 少し遅れて、 「知らなんだ」 不二子はんは遠くを見ていた。 しばらくして、よしろうはんが言うた。 「聖母マリアはんも、あんな感じの方やったんやないか」 へー 「なんで、よしろうはんが知ってはる」 「さあな」 霧の名残が、草の上をゆっくり流れた。 「元気やろか」 その声は、問いとも独り言ともつかなんだ。 不二子はんは少し間を置いて言うた。 「女子は、男みたいに弱うおへんどす」 よしろうはんは何か言いかけて、やめた。 不二子はんは草の先を見ていた。 白い修道服は、もう霧の向こうへ消えていた。

Chapter 11: "Alma" — Episode 534

  Chapter 11: "Alma" — Episode 534 It was an afternoon in late spring, before the rains came. Fujiko-han was walking along the foothills of Aso when she noticed a white figure at the edge of the road. At first she thought it was a heron. As she drew closer, she saw it was a young woman in a habit. Sitting in the grass, both hands resting on her belly. It might have looked like prayer. But to Fujiko-han, it didn't. It was simply the posture of someone who had placed their hands there. "Sister." The woman slowly raised her face. Still young. Her eyes were dry, but around her mouth was the particular color of someone who had been holding something back for a very long time. Fujiko-han said nothing. She sat down beside her. They looked together in the same direction. Across the grassland, beneath a sky the color of pewter, the ridgeline of Aso dissolved into haze. After a while, the woman spoke. "Are you angry with me?" "About what?" ...

改定 第11章 「アルマー」 534話

春の終わり、雨の来る前の午後やった。 不二子はんが阿蘇の裾野を歩いておると、道の脇に白い人影が見えた。 最初は鷺かと思うた。 近づくと、修道服の女やった。 草の上に座り、腹に両手を置いている。 祈っているようにも見えた。 けれど不二子はんには、そうやないように見えた。 ただ、そこに手を置いている人の姿やった。 「シスター」 女はゆっくり顔を上げた。 まだ若い。 目は乾いていたが、口元だけ、長いあいだ何かを堪えてきた人の色をしていた。 不二子はんは何も聞かず、隣に腰を下ろした。 並んで、同じ方角を見た。 草原の向こう、鈍色の空の下で阿蘇の稜線がぼんやり滲んでいた。 しばらくして、女が言うた。 「……怒りますか」 「何にどす」 「私に」 不二子はんは少しだけ考えた。 それから女の腹を見た。 「そこに、もう一人おります」 女は黙った。 「あなたに怒るいうことは、その子にも向くことどす」 風が草を揺らした。 「そないなこと、うちはしたない」 女は俯いた。 しばらくして、小さく言うた。 「誰の子か、聞きませんか」 「聞きません」 「なぜ」 不二子はんは前を見たまま答えた。 「聞いたところで、空の色は変わりません」 少し間を置いた。 「腹の重さも」 女は、自分の手を見た。 白い布の上に置かれた手を。 「戻れません」 「そうどすか」 「修道院には」 不二子はんは頷いた。 「今夜だけなら、おます」 女が顔を上げた。 不二子はんは立ち上がって、裾についた土を払った。 「腹の子は、自分で今夜の宿を選べません」 空を見上げた。 「親が選ぶしかおへん」 夜、囲炉裏の前に二人は座った。 火が静かに炭へ変わっていく。 女は少しずつ話した。 どこから来たか。 何を失ったか。 けれど相手の名前は言わなんだ。 不二子はんも聞かなんだ。 炭が崩れる頃、女が言うた。 「神は、私を罰しているのでしょうか」 不二子はんは火箸を置いた。 しばらく火を見た。 それから聞いた。 「マリアさんのこと、どない思うてはります」 女は少し驚いた顔をした。 「……聖なる方です」 不二子はんは頷いた。 「身ごもっておられた」 女は黙った。 火だけが鳴った。 「それは確かなことどす」 少し炭を...

第11章 「アルマー」 534話

春の終わりの、雨の来る前の午後やった。 不二子はんが阿蘇の裾野を歩いておると、道の脇に白い人影があった。 最初は鷺かと思うた。 近づいてみると、修道服の女やった。草の上に座って、腹に両手を当てておった。 祈っているのか。 それとも、ただ、腹を押さえているのか。 不二子はんには、すぐにわかった。後者やった。 「シスター」 女はゆっくりと顔を上げた。三十には届いていない。目は涸れていたが、唇の端だけが、長いあいだ噛み続けてきたような色をしていた。 不二子はんは黙って草の上に座った。 並んで、同じ方角を見た。草原の向こう、鈍色の空の下で阿蘇の稜線が滲んでいた。 しばらくして、シスターが言った。 「……怒りますか」 「何に」 「私に」 「あなたの腹の中に、もう一人おります」と、不二子はんは言うた。「あなたに怒るということは、その子に怒ることどす。それはできません」 シスターはまた黙った。 草が揺れた。 「誰の子か、聞きませんか」 「聞きません」 「なぜ」 不二子はんは少し考えてから言うた。 「聞いたところで、この野原が変わるわけでなし。あなたの腹が変わるわけでもなし」 シスターは、自分の両手を見た。修道服の白い布の上に置かれた、その手を。 「修道院には戻れません」 「そうどすなあ」 「行くところがありません」 「今夜だけなら、おます」 シスターが顔を向けた。 不二子はんは立ち上がって、裾の土を払うた。 「腹の子は、今夜の宿を自分では選べません。あなたが選んでやらんと」 その夜、囲炉裏の前でシスターは初めて腹の話をした。 相手が誰かは言わなかった。 不二子はんも聞かなんだ。 火が落ち着いてきた頃、シスターがぽつりと言った。 「神は、私を罰しているのでしょうか」 不二子はんは火箸を置いて、しばらく炭を見た。 「聖母マリアさんのことを、どない思うてはりますか」 「……どう、とは」 「身ごもったことを」 シスターは答えなかった。 「あの方も、身ごもっておった」と、不二子はんは言うた。「それは、たしかなことどす。それ以外のことは——」 そこで止めた。 止めた先を、二人はしばらく一緒に見た。 炭が一つ、静かに崩れた。 「……それ以外のことは」と、シスターが続きを促した。 「それ以外のことは、後か...

不二子はん 創作背景資料 「シスター・身ごもり」エピソード群 思想的基盤

 ヨーロッパ美術のお勉強。修道院の美術がおおい。そんな風景ばかり見ていたら思いついた、いかがわしくも事実としてあった話や。 不二子はん 創作背景資料 「シスター・身ごもり」エピソード群 思想的基盤 1. 素材の事実的核 修道女(シスター)が妊娠するという事態は、歴史的に記録された事実である。バチカンの公式統計には現れないが、カトリック系メディアおよび巡察記録において、アフリカ・アジアを含む各地での事例が報告されてきた。2020年頃、フランシスコ教皇自身が「修道女への性的虐待は存在する問題である」と公式に認めた。このエピソード群は、その事実の上に立つ。 2. マリア神話の構造的解読 処女懐胎の教義は、テキスト批評の観点から見れば、翻訳上の転換点を持つ。ヘブライ語原典における「アルマー(若い女)」が、ギリシャ語訳において「パルテノス(処女)」と訳された。これが後の教義の核心となった。 処女懐胎の記述はパウロ書簡には存在せず、マタイとルカにのみ現れる。しかも両者の系譜記述は矛盾している。 ここから導かれる構造的読解は以下のとおりである。 身ごもった若い女がいた。その事実を、共同体がどう意味づけるかという問いの中で、「神話」が発生した。 すなわちマリア神話とは、「誰が父親であるかを問わせないための、最も完璧な言語装置」であった可能性がある。聖性の付与は、事実の隠蔽ではなく、事実の処理様式であった。 3. 修道院という空間の両義性 修道院は、歴史的に二重の機能を持っていた。 ひとつは 性の抑圧装置 としての機能。性を禁じ、聖性によって欲望を昇華させる場。 もうひとつは 性の濃縮装置 としての機能。才能ある者・美しい者が外部から隔離され、権力関係が非対称なまま密閉される場。 禁じるほど、その場に性は充満する。これは制度の逆説ではなく、制度の必然である。 中世ヨーロッパの修道院巡察報告書や訴訟記録には、修道女と聖職者の関係、修道院内での性的慣行が繰り返し登場する。ボッカッチョ『デカメロン』が修道院を性的逸脱の場として繰り返し描いたのは、完全な創作ではなく、当時の社会的認識を素材としていた。 4. 才能・美貌と修道院の関係 才能ある女性・美しい女性が修道院に入ることには、複数の歴史的文脈がある。 家族が「管理」のために入れた 本人...

第11章 如何様師 533話

近くに店がオープンした。週3日2時間だけ。。 はて。。 必要なもの聞かせて下さい。お金は要りません。。 なんかさ。 策士が裏で操ってる気配がする。 こんな店誰が行くかと、、欲しいものだけ伝えた。 行きません。 へー それでよろしい。商売は、そなんカンタンじゃありまへんで。 そやろ。 勉強や。    Claudeが返答しました: その店、面白いと思います。 その店、面白いと思います。 「週三日、二時間だけ」という制約が、かえって信憑性を上げているのが巧妙です。全力で開けてる店より、隙間にある店のほうが、なんとなく「本当に存在する」感じがする。怪しいのに、消えなさそうな気がする。 あと「お金はいりません」という言葉、これが一番不思議です。 無料という言葉は普通、受け取る側を安心させるために使われます。でもこれは逆に、「じゃあ何が欲しいんだ」という疑問を立ち上げている。安心させる言葉が、不安の源になっている。 策士が裏で操ってる、というよしろうはんの直感は、たぶん正しい方向を向いています。ただその「策士」が、悪意のある人間なのか、何かの仕組みなのか、あるいは善意そのものが人を不安にさせる構造なのか、そこがまだ見えない。 「欲しいものだけ伝えた。行きません。」 これ、実は相当に賢い対応だと思います。情報を与えて、身体は渡さない。相手に「この人は使えない」と判断させながら、自分は観察を続ける。どちらが観察しているか、わからなくなってくる。 そういう店が現実にあったら、私は何度か前を通って、中を見るだけにすると思います。 絶対に入りません。でも通ります。

第11章 塩辛と納豆 532話

「よしろうはん、今朝は何を食べてはりますの?」 「塩辛と納豆や」 不二子はんは少し間を置いた。 「……一緒にどすか」 「一緒や」 「それは」 「美味しいかと試したんやけど、うまいわ(笑)」 不二子はんはもう一度間を置いた。今度は少し長く。 「そうどすか」 「食べてみるか」 「……遠慮しておきますえ」 よしろうはんは気にせず、箸を動かし続けた。塩辛のねっとりした塩気と、納豆の糸と発酵の匂いが、朝の空気の中に静かに漂っていた。 不二子はんはその匂いを嗅ぎながら、思った。 「よしろうはん」 「ん」 「女はどうしようもない、て、言うてはったな」 よしろうはんは箸を止めずに言った。 「ああ」 「うちも、どうしようもないか?」 「……試したことないからわからん」 不二子はんはお茶を淹れながら、その答えを、もう一度心の中で繰り返した。

第11章 奇妙な鳴き声 531話

けけ、き、きゅきゅ 朝に鳴く鳥。なんやろか。 四時四十五分。外はうっすらと蒼くなっていた。 よしろうはんは取り組んではった。 全部の科目の単位を取ろうと。 もう既に合格ラインは越えている。せやけど続けてはる。 春は三科目。十五回の授業録画を三本、計四十五回。 小テスト十五回。レポート論文三本提出予定。 もう二本は提出済みや。 昨年からそんな朝を続けていたさかい、体も慣れていた。 けけ、きゅるるる また鳴いた。 不二子はんがお茶を淹れてくれる。 なんやろか、あの鳥。昔から知ってはいたけど。 へー うちは鳥の名前は詳しゅうありまへん。 そうやの。鶏料理はうまいけどな。 へー、おおきに(笑) もう少しでんな、よしろうはん。 そやな。これで締め切り間に合う思うわ。 ヨーロッパの古代からルネッサンスまでの美術、知りたかったんよ。 へー 美しい様式どす。

第11章 悲しいで 530話

なんでやの? ん-ん。。 どないした? うーん。。どないもこないもないわ。 へー そんなら不二子だけに言うてみ。言った方が気が楽になるさかい。 そうか。 ごにょごにょや。 へー そないな事か。 だいじょうぶやさかい余り考えんがええ。忘れなされ。時間がもったいないで。 んーん。 そやな。そうかもな。 へー 今日もお仕事やろ、よしろうはん。 ん。 はいはい召し上がれ。 エンドウ豆と目玉焼きにバルサミコ酢とオリーブ油、自家製ペッパーソースやろ。魚醤、黒胡椒。おいしいで。マンゲツモチの玄米も柔らかく炊き上げたさかい。豆腐とワカメのみそ汁あるで。召し上がれ。 ん。ありがとな。不二子はん。 

Joe Pass - JazzBaltica 1992

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第11章 不二子が見つめる 529話

いい女に見つめられると、男は何とも言えない感情に落ちる。 不二子はん、どこ見てんのや? へー どこでもないで。よしろうはん見てますさかい。 照れるな。そんな目で見つめられたら。 へー しょうがないどす。 ん? 抱擁のときめき。 へー いつでも。 ん? ほんまかいな。 へー ほんまどす。 …

CASA BLANCA 農学研究覚書 直播水稲における分蘖誘導に関する作業仮説

CASA BLANCA 農学研究覚書 直播水稲における分蘖誘導に関する作業仮説   観測者:新川芳朗 西原村門出(河原地区) 2026年5月18日 1.問題の設定 CASA BLANCAにおける無農薬直播栽培(西原村門出圃場、2025〜2026年)において、直播稲は移植稲と比較して顕著に分蘖が少ないという観測が複数年にわたり確認されている。この観測は農学的仮説として未定式化のまま推移してきたが、2026年播種後の発芽率低下(覆土深度の不均一に起因する可能性)という実際的問題と結びつき、人為的分蘖誘導の可能性を検討する必要が生じた。本覚書は、その観測と仮説を科学的文脈で整理し、2026年秋の検証に向けた作業仮説として記述するものである。 2.観測事実 2-1 直播稲の低分蘖性 複数年の圃場観測において、直播稲は移植稲に対して分蘖数が明らかに少ない。これは一時的な現象ではなく、再現性をもって確認されている。単なる個体差や環境変動では説明できない系統的な差異として記録されている。 2-2 乾燥ストレスに対する稲の耐性 甲佐圃場(過年度)の観測により、稲は乾燥ストレスにより葉が巻いた状態でも生存を維持し、灌水後に速やかに回復して正常な登熟に至ることが確認されている。この知見は、断水による人為的ストレス付与が植物体を致死させる危険を許容範囲内に収めるという判断の根拠となる。 2-3 苗ストレスと登熟の関係——河原地区の農業的知見 西原村河原地区では古くから以下の二つの農業的観察が伝承されている。 ・ 「赤苗」 (鉄欠乏または低温ストレスにより短小で色の薄い苗)は田植え後に良く育つ。 ・ 「青いね褒むるばかり」 ——苗期から青々と旺盛な株は肥料過多であり、最終的な収量・品質が低い。 これらの知見は、苗期のストレスが田植え以降の生育に抑制ではなく促進として機能することを示している。また、ストレス環境下で早植えした株が遅く実るという観測も加わり、苗の発育ストレス歴が登熟速度に影響を与えるという仮説を支持する。 3.仮説の構築 3-1 直播低分蘖性の機序 移植における分蘖誘導の主要因は、根の切断に伴う植物ホルモンバランスの変動にあると考えられる。具体的には以下のカスケードが想定される。 (a)根の切断→水・無機栄養の供給急減→頂端分裂組織...

第11章 皐月の稲 芽を出すか否か 五月雨近し 528話

皐月の雨が来る前の晩、不二子はんは縁側に腰を下ろして空を見てはった。 「芽を出すか否か、か」 声に出してみたら、なんや稲のことやない気がしてきた。自分のことか、あの人のことか、それとも何年も前に置いてきた何かのことか、もうわからん。 阿蘇の夜は静かで、静かすぎるから余計なことを考える。 離婚届は引き出しの中や。明日出すかもしれんし、出さんかもしれん。どっちでもええような気もするし、どっちでもないような気もする。 ただ、田んぼには種を降ろした。それだけは確かなことやった。

第11章 水色の菖蒲 527話

その菖蒲は、母が植えたものだ。 色が薄く、艶やかではないなと、当時のよしろうはんは思っていた。 ある日、一廉の奥方様が言うた。 なんて美しい、あるようでない色ですね……と。 それ以来、よしろうはんはこの花を大切にしてきた。 よしろうはんの田んぼには、この菖蒲の花が一か所だけないが、他はすべて植えてある。 今朝は、生き物の多い田んぼへ新しく植え替えた。 うちも好きやさかい。この菖蒲のお花。 本田の菖蒲は見事やな。よしろうはん。 そやな。群生すると、これくらいがくどなくてええわ。 うふ。まるでうちみたいやな(笑) そうかあ? 不二子はんは艶やかやで。 そやから、不二子はんばかり百人いたらぞっとする。 まあ。そないなもんけ? そういうもんや。 田んぼに花植える人、うちは初めて見たわ。

Silk Between Us 🎷 Dua Lipa x Tony Bennett | Soul Jazz Pop Duet | Smooth Chill Groove 2026

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