12章 七夕に最後の田植え 605話
ひさかたの 天の川原に ぬえ鳥の うらなけましを 見る人なしに (万葉集・柿本人麻呂より) 湛水直播というもんは、うまくいけば楽やけど、外すと見事に外してくれる。 今年は稲よりヒエのほうが元気やった。 これでは話にならん。 もう一度代掻きをして、田植えに切り替えることにした。 七月に入ってからの田植えは遅い。それでも、ヒエを育てるよりは稲を植えたほうがええ。 苗は南の宇城種苗センターで買うた。 ところが、苗の時点で、もういもち病が見えとる。 最近は苗のうちから入っとる年も珍しゅうない。 皆が言うけど、ヒノヒカリという品種は高温化したこの土地では適応してないんやろ。 よしろうはんが、普段から高温に強い「にこまる」を選んどるんも、今となってはよう分かる。 せやから苗の管理中に、竹酢液を百倍に薄め、展着剤を加えて五回散布した。 この濃度なら葉焼けもなく、経験では穂が出る頃までは十分持つ。 問題は、その先や。 穂いもちだけは、人間の都合では決まらん。 雨が続く年もあれば、風がよう通る年もある。 同じ田んぼ、同じ管理でも、出る年は出るし、出ん年は出ん。 百回説明するより、一年育てた田んぼが答えを教えてくれる。 農業は、毎年同じことを繰り返しながら、一度として同じ年がない。 それがおもしろいところでもあり、難しいところでもあるんや。