第11章 きびなご月締め仕込み 544話
「不二子はん、これ見てみ」 よしろうはんが冷蔵庫の奥から瓶を取り出した。 中には銀色の小魚が塩に埋もれて、じっとしている。 「きびなごですか」 「そう。三日前に三十度の縁側に置いといた。今朝、冷蔵に移した」 不二子はんは瓶を光にかざした。 底に琥珀色の液体が少したまっている。 「もう発酵してるみたや、中が」 「内臓ごと入れてある。そこが肝心や」 魚は自分で自分を変えていく。 塩がその速度を決め、温度が起動させ、時間が仕上げる。 人間がすることは、ほとんど何もないともいえる。 「いつ食べれるんかな」 「さあ。様子見ながら決めたらええ。骨まで食べれるで」 不二子はんは少し黙った。 「待つのが、肝でおますんやな」 よしろうはんは頷いた。 縁側の光の中で、瓶をそっと冷蔵庫に戻した。 覚え書き きびなご(内臓込み)500g 粗塩 125g(25%) 30℃で3日 → 冷蔵で2〜3か月 熟成液は魚醤の様なソースに オリーブオイルで保存 ソテーで頂く 骨ごと食べられる