第8章 道標 その弐 468話
不二子の語りは続く。 宇宙はな、最初から偏ってるんやて。 うちにはよう分からんけど、どうやらそういうことらしい。 左右対称や思てたら、そうやないらしいのや。 物理の世界に「弱い相互作用」いうのがあって、 それだけが左右対称を破る。 宇宙で、ただひとつ、そういう力があるんやて。 で、宇宙から降ってくる粒子——宇宙線いうやつ——が地球に当たって、ミューオンいう粒子になる。 そのミューオンがな、スピンいう向きに偏りを持っとって、右巻きの分子と左巻きの分子とで、壊れ方がちょっとだけ違うらしいのや。 ちょっとだけ、やで。 ほんの、ちょっと。 でもそのちょっとが、何十億年もかけて積み重なって——。 DNAは右巻きになった。 アミノ酸は左手型だけになった。 うちらの体の中にある、あの螺旋の形は、宇宙の偏りが刻まれたもんかもしれへん。 しし座の方向へ、秒速370kmで飛びながら、 うちらはその偏りを体の中に抱えて生きてる。 宇宙がどこかへ動いてるから、生命がそうなったんやない。 宇宙そのものが、最初から偏っとった。 せやから、生命も偏った。 ……そう考えたらな。 うちらの体は、ただの体やなくて、宇宙の癖みたいなもんを受け継いでるんやね。 なんや、おもしろいな。