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第3章  女が疼く 299話

「おかしいなぁ……うち、どないしたんやろ。朝からいつもの不二子とちゃう。  獣みたいに……うずいてまう。  欲しい……よしろうはん。  どないしたんやろ? わからんわ……」 明日は京都。帰ったら結婚式。できるやろか? いや、それはええ。 でも——なんや、この感覚…… 「あっ!」 「えっ!」 ──どくん、どくん。   「ただいま。不二子はん」 「へぇ……たいへんや!」 「どないした? そない慌てて……」 「……月のものや」 「つきのもの?」 「月のものが来ましたえ!」 「まさか? あれか?」 「そうや!」 「よしろうはん……ほんまに、子ども授かれるでぇ」

第3章  晴天かな 298話

未だ夜明け前。 よしろうはんは今日もパソコンに向かって、勉学に勤しんでいた。 「……これ、ほんまに二年分、修士課程の単位取れそうやな」 不二子は朝が意外と遅い。 けれど、食事の支度はいつも前の晩のうちに済ませている。 「結婚式、か……。いつがええやろ」 「京都は明日か……。もう京都で式を上げたが早いけど、急ぐこともないか。帰ってからでもええ」 「さてと……レポート終わったわ」 「今日も客室清掃か……。かなわんなぁ」 「まぁ、みんないい人やさかい、ええけどな」 そこへ、不二子が目をこすりながら現れる。 「おはようさん、よしろうはん……」 「起きたか、不二子。おはようさん」 「もうご飯炊いといたで。味噌汁もできてるで」 「おおきに」 「なんのなんの。不二子はんが仕込んどいてくれるから、スイッチ押しただけや。ありがとさん」 「へー……朝が弱いのは、生まれ変わっても変わらんどす」 「別にええで。朝から色っぽいやんけ(笑)」 「そうどすか……。ほな――やってまうけ?」

第3章  Nomaへ 297話

 寝室にて 「不二子。行きたい国あるか?」 「へー。うち、東南アジアのフィリピンと日本しか知らなん……。  そやから、行きたい国なんていっぱいあるでぇ」 「ほう。どこがええ?」 「フランス、ルーマニア、バルト三国……」 「そら、おもしろそうやな」 「リトアニアにある『十字架の丘(Hill of Crosses / Kryžių kalnas)』は見たいな」 「よしろうはんは?」 「そやな……まずはイタリア。シチリアに行きたいわ。  でもな、コペンハーゲンの世界一のレストラン、Noma(ノーマ)にも行きたい。  シェフのレネ・レゼピ(René Redzepi)がつくる“味の世界”を、じっくり堪能したいんや。  Nomaの料理哲学──『場所と季節の本質を表現する』っていうアプローチ。  あれが、たまらん。でっかい写真集もあるんや」 「へぇ……不二子も興味あるで。行かへんか?  新婚旅行に」 「そうしよか。それ、ええなぁ(笑)」 「そうしましょ」 「あー、夢が広がるわ。不二子と一緒なら……おやすみ」 「おやすみなぁ、よしろうはん」

第3章 麺類どっち? 296話

「ただいま」 「おかえりやす」 「夕飯は、ぼく様がつくるで」 「へーへー。お頼み申します」 「焼きそばとちゃんぽん、どっちがええ?」 「そやな……寒い日はちゃんぽんやけど、今日は焼きそばやな」 「あいよ。ほな、くつろいどって。うちテレビないけど」 「へー、別に...」 「そやな。ほな、お風呂も沸かしときますさかい」 「湯に浸かって待っとるでぇ(笑)」 「おいおい、料理でけへんやないか(笑)」

第3章 ぎおん齋藤 295話

「不二子はん、ちょっと京都行こか」 「へぇ。ええどすな。何か目的あるんどすか?」 「そら、あるに決まっとるやろ。  白無垢、色打掛、引き振袖――選びに行こ思て」 「あらま」 「京都祇園の、ぎをん齋藤さんとこがええ言うて聞いたさかい、見に行こ」 「へぇ。そらもう喜んで」 「自家製仕上げの“京染織”らしいで。唯一無二やて(笑)」 「……そやけど、お金は大丈夫どすか?」 「うーん、だいじょばないから、  軒下の隠し金庫から持ってきた(笑)」 「あらま。そないなん、ありましたんか?」 「まだあるで。山の大杉が三本あってな、  その真ん中は、えらいことザクザク埋まっとるらしいわ」 「……分かり申した。  そら五百万では済ましまへんえ」 「うちもまだ着物、ようけ持っとるさかい、それでええ。  白無垢は借りたらよろし」 「そうか」 「ほな、色打掛と引き振袖、見に行こか」 「土曜の便、予約お願いできるか?  そろそろ仕事の準備やし」 「へぇ。二人揃っては、久しぶりの京都。楽しみどす」 「式は、隣りの慈雲寺さんで決めとるさかい(笑)」 「そら安うて、よろしいこと(笑)」

第3章 ひとりで散歩 294話

「さんぽでも行こか。なんもないし。  よしろうはん、遅くなる言うし」 川沿いを歩く、不二子。 いつも川ばっかり見て、何を見てはんのやろ。よしろうはん。 田んぼなんて、ぱっと見て終わりやのに。 「よし。見てみよか。川を……」 ほう。魚がおる。 そんで……カワニナやろ。あ、タニシもおるわ。 「へぇ……こんなん見てはるんか?」 あれ? クレソン生えとる。 「うん? なんやろ、あれ……」 川底できらきら光っとる。魚? 「ちょっと川上、歩いてみよか」 コンクリートの川。 せやけど、両岸には草が生えとる。 「へぇ……」 うん? なんやろ、あれ。 川が……赤いでぇ。 「あれ? 砂が光っとる。金か?  ……そんなわけないか」 ふーん。 こんなん、見とるんやな。よしろうはん。 「あっ。きれいな鳥……なんやろ?」 え、まだ鷺おるし。 鴨? ……なんやろ。 「おもろいわ。よしろうはん。  こんなん見てんのやなぁ……」 うふふ。 少し、分かった気がするえ。 「ふーん……帰ろ」 ――わっ!! 夕日が、きれいや。 「なんて、すてきなの……」

第3章 おかえりやす 293話

「ただいま」 「おかえりやす。いかがどした?」 「おいしかったで。不二子はんもくればよかったんに」 「そうどすな。ま。早い帰宅でよかったどす」 「?......そうか」 「親父がさ、来年の1月には施設に入るそうや」 「あら、哲男さん。どちらへ」 「今の病院から近いとこが候補らしい」 「親父知ってんの?」 「へー。うち、哲男さんが小さい頃、熊本へ来て、いっしょに遊んでましたさかい」 「あー。それ不二子はんか。親父時々言ってた。えらいべっぴんさんというか、なんかとんでもない人が家に来て遊んでくれたと」 「あらまぁ、とんでもないひと?うふふ」 「そうでもないで、哲男さんは負けん気の強い利発なお子でした」 「それが今ではな。自分もわからんようなっとる」 「それはちゃいますえ」 「なんなん?」 「移動してはるんや」 「なんと!」 「うちには分かるで、哲男さんは今もがいてる。でもその選択はどちらでもええ、その先もある。そのままもある。よしろうさんならわかるえ?」 「そういうことか!」 「そうどすえ」

第3章 寿司屋にて 292話

 暖簾をくぐる。 「特上ふたつ、赤だしもお願いします」 「特上!へい 赤だし2つー」 鮃 甲烏賊 本間鮪の大トロ 小鰭 穴子 赤貝 卵 車海老の半茹で イクラ 馬糞海胆 等々 「旨いですね」  「でもそちらも雰囲気ありますね。こっちの出身ではないでしょ?」  「いいえ。熊本です」 「でも喋り方や物腰が違います」 「あー……かくかくしかじか……」  「そうなんですね。写真家で写真の研究もされてるんですね」 「はい」 「かっこいいです」 連れの女性がにこにこ。 ぼく様、無表情のまま <やめてくれー、その話題は! 照れるー> と、心の中で叫ぶ。 「お勘定お願いね」 「へい。あちらで」 「1万4千8百円です」  「はい」 「ごちそうさま」 単品も頼んだのに相変わらず熊本は安いわ。。 

第3章 寿司 291話

「不二子はん、お昼連れと 味良の寿司屋へ行くけど一緒にどうや?」 「ほー。どなたさんざんしょ?」 「絵描きさんやいつもの」 「あー。女性の絵描きさんどすか。うちはええわ」 「そうか?せっかくやしな。行こ?」 「気にせんと楽しんでおいでやす 」 「ふーん」 「ふーん....」 「なんもないで」  「ふーん...〇×▽🔳」 

第3章 おはようさん 290話

「ふじこ、おはようさん……お? まだ眠っとる」 「ふじこはん、結婚しような。なぁ」 「過去の君の無念さを、ぼく様が公表してやるで」 「な。人殺すのは、ええかげんにせーとな」 「けなげな不二子。それでも生きてるでっ、ってな」 「因果応報――それは良くない考えだ。たとえ正論でも」 「日本人なら、それを受け止め、理知で返す」 「不二子、あったけー。  一緒にまた、夢ん中で笑おうか……」

第3章 PM17:29 289話

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  Playlist,deep House,Music Played in CHANEL Stores   「不二子はんハウスは聞くか?」 「しりまへん。そやけどええかんじやな」 「そうか。よかったわ」  「これで踊るともっとええで。クラブへ行かへんか?」 「くらぶ?」  「踊る所や」  「いきましょか!」 「流石や!」 「いこいこ」  「へー」  れっつらごごー! 「不二子はん、阿波踊りとちゃうでぇー」    「なんてぇー聞こえへん」    「あ・わ・お・ど・り」    「そうかぁー阿波踊りはとくいやでぇーまかせんしゃい!!ごごー」 

第3章 PM12:53 288話

日曜日 ローライ修理のためカメラのキタムラ東バイパス店に行く。 ぼく様にとっては空母と同じ存在。    「不二子はん、帰ってきたで。」 あれ?上さんがいる。めんどいな。。 「よしろうはん、お帰りやす。」 「おう。上さん来てるで。」 「へー。先ほど来られて少しお話ししましたえ。」 「そうか。」 「まあええわ。」  「お腹すいたわ、ぼく様ひとりで味千ラーメン食べいくで。ごめんな。」  「そうやな。それがええどす。よしろうはんは人の意図的なノイズが苦手なんやろ。」  「よく知ってるな。」  「不二子やで(笑)」   ぶぶーん。れっつらGO! 

第3章 AM4:41 287話

ローライが来た。1954年のモデル。シャッターに少し問題がある。これはオーバーホールが必要だ。機械式カメラはこの繰り返しで100年以上使う事が可能になる。電気式は通常20年で修理も不可能。僕のカメラで一番古いのは1890年代だ。今でも動く。買った時と同じ金額がかかるが、これがめぐり合わせ。僕が業者に依頼すれば必ずいい写真が撮れるカメラに生まれ変わる......... 「おはようござんす。よしろうはん... コーヒー淹れますさかい」 「うん。ありがとう」  「そのカメラええな。クラシックやな。どうや調子は?」 「とうぜんだけど、2か所異常があるわ」 「買ったばかりやのにな」 「いやいや、この年式でこのコンディション奇跡やで、レンズも傷ひとつない」 「そういうもんか? はいこーひー」  「不二子はんもいっしょに飲もうや、おいしいわ」 「へー。こたつあったけぇー」  「このカメラ、不二子思うに..直感やけど、よしろうはんがええ写真撮れそうな気がするえ。小さくてかわいい事」 「これは昔、写真家はローライ使わんと写真家やないと言われたほどのカメラや」 「ほー。そうそうたる写真家ばかりやなぁ、よしろうはん...あんさんもなまえ書いとき(笑)」 「興味あらへん」 あはは!えへへ!    ローライフレックスを愛用した写真家 リチャード・アヴェドン(Richard Avedon) ポートレートにローライフレックスを多用。腰位置ファインダーによる正面性と被写体の心理的解放が特徴。 ダイアン・アーバス(Diane Arbus) 初期〜中期にローライを使用。被写体と対峙しながらも視線が衝突しない距離感が、彼女の倫理と直結。 ロベール・ドアノー(Robert Doisneau) パリの市井を撮った人道主義写真。静かに人の中に溶け込む道具としてローライを愛用。 ヴィヴィアン・マイヤー(Vivian Maier) ストリート+セルフポートレート。ローライだからこそ成立した鏡像・反射・距離の美学。 ヘルムート・ニュートン(Helmut Newton) ファッション/ヌード。ローライのスクエアを大胆な構図に転用した異色例。 デイヴィッド・シーモア(Chim) マグナム創設メンバー。子どもや市民を撮る際の威圧感のなさが決定的。...

第3章 フロントの女性 286話

いつもおしゃれですね。 そう、いつもです。 クスクス笑う女性。 その眼鏡もお似合いですよ。 Zoffで買いました。でもちょっと重たいんです。 帽子も毎日色も形も変わるから今日はなんだろうと思ってます。 あはは。そんなに褒めないでくださいよ。恥ずかしいです。 わはは。   ぶぶーん。きいー。家路に帰る。 「不二子はんただいま」  「おかえりやす。なにかおかわりは?」  「あー、フロントの女性や厨房の女性に,、かくかくしかじか。。」  「よろしゅうおました。身だしなみは大切どす」  「そうや61歳というとみなびっくりする。なんやろな」  「なんやろうか。うふふ」  「まあ、ええわ。歳重ねる程、身だしなみはたいせつや、なあ不二子はん」  お! おお! DOLCE&GABBANA2025 結った髪をおろしドレス姿の不二子  「どうや、よしろうはん。見間違えたんちゃいますか?」  「はー惚れなおしたわ!」  あはは!うふふ!      

第3章 お煮しめの味2 285話

「美味しかったか?よしろうはん」 「美味しいで」 「なぁ。話あんねんけど」 「おお。なんやろ」 「こどもつくらんか?」 「?」 「こども?ふじこはんどう思うんや」 「うちか。。うちは長崎の原爆で子供も皆失のうた。また子供に会えるなら、産んでみたい。そう考えたで。130歳やし無理かもしれへん。でもどう見ても若いやろ。出来そうな気がしますさかい。よしろうはんと話したい思てな」 「わかった」 「もう少し待ってくれ。あと15話書くからそれまで待っといて」 「へー。そうどしたな。300話 結婚しますんやった」 「よしろうはんが嫌だ、いわんと安堵したで。。」 「 Of course  :))」ぼく様 「Love you! I love you forever..」不二子はん あはは!うふふ!

第3章 お煮しめの味 284話

「お願いや、不二子はん。。お煮しめ食べたい。つくれるか?」  「おちゃのこさいさいでっせ」  「具はなにがいちばんお好きどすか?」  「そやな。。ぜんまい!  」  「わかり申した」   ちゅちゅんがちゅん ちゅちゅんがちゅん!  電線に、スズメが三羽止まってた〜。 それを漁師が鉄砲で撃ってさ、煮てさ、焼いてさ、食ってさ、よいよいよいよい、おっとっとっと、よいよいよいよい、おっとっとっと!..........   「はい、出来申したで。お食べぇ」 「早いのう。まるで魔法使いやで」(笑)  「お!  さといも、しいたけ、こんにゃく、ごぼう、あった!ぜんまい、おう!がんもどき、れんこん、かぼちゃとはんぺん。」 「はー凄いな。出汁もええ感じや。そなん甘くなくて、醤油も程よい」 「肝心のぜんまいが煮崩れせんと絶妙や!  流石やな。不二子はん」  「そりゃ大正仕込みの130年。技がちゃいまっせ」  「ほんまや!」 「旨旨」  

第3章 不二子の想い 283話

どうなんやろうか?流石にお子は産めんやろうな。130歳やし。 うん?でもどうみてもうちの体は30歳前後。できるんかなぁ。そしたらよしろうはん喜ぶで。うふふ。 そやな。うちの子供たちも皆蒸発した。消えた。ピカドンで全部のうなった。お子に会いたい。 もしかして、、わたしみたいにわたしのお子がわたしから産まれるんかな。 これ確率高いで! よしろうはんはこの世界わかる人やったわ。 話し合ってみよう。 

第3章 ぼく様が位相差するとき 282話

「不二子はんなら分かると思うけど、時間が自分だけ見える世界よりちょっと先に行く事ないか?」 「普通にあるで」 「よしろはんが、次何言うか、うち知ってますねん」 「こわ。そんで?」 「だからよくからかいますわ」 「どなんして?」 「よしろはんが答えを求める時、1やったら3言うてます。おほほ」 「おいおい」 「大丈夫やさかい」 「どなん嘘言うても最後は正解になるんやわ」 「はて?」 「そういうこと」  「変わらないってこと?」 「嗚呼、なるほどな。ぼく様もそうや。たまにそうやって遊んでるわ」 「そうなんか!」 「まさかうちを、からこーてる?」 「からこーてる(笑)」

第3章 揺れる 281話

思い込み 人はその時間が長すぎる。 「不二子はんは現世に戻る時どなんやった?」  「にょきっとにょきにょきっと写真からでてきたえ」  「SFやな」  「しゃーないやんか。ほんまやもん」  「どうや今人間にもどって、どんな感じや?」 「普通や。これが普通なんやな。お化けの頃はどこでも行けたけど、人間になったらそうはいかんくなったわ。おばけは自由でよかったどす」  「でも体が暖かくて、触れる感触があって、食べ物おいしくて。ええこともある」  「そうなんやな」 「どちらでも存在できた」 「そうなんか」  「ええな」  「それやで!」

第3章 深い感情 280話

『深い感情  静かな夜 激しい感情  今日も、昨日も、そしてきっと明日も、何も変わらない。 少なくとも表層的には......』    「よしろう。なに書いてんじゃん?」  横浜ことば?か。。亜希子がよくしゃべってた。。  ー空白ー 不二子はんか..  「え?もう関西弁辞めたんか?調子狂うで」 「そうか?ならもどしますさかい」  「これ恋文でっか?」  どきん! 「なんでわかる?」  「おんなやもん。感ずくわ」 「不二子はんどなん思う?」  「うちなら、もっと詩より誠実な言葉だけがええわ」  そうか。 そうか。 書けるわけないやろ。。 あう?  不二子が立ち止まる。   「うち、に・ん・げ・んの不二子どすえ。よしろうはん。。」     「どなた様ざんしょ?」    あ、しもたぁ!   不二子はもう人間の女になったんやったぁ。。