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第3章 はひふへほー 269話

不二子はんの写真が食卓のサイドテーブルに置いてある。 最近尊敬のまなざしを込めた清々しい表情。 「どないした?不二子はん。あんまり見つめると怖いで」 「あら。はひふへほーざます」 「?.......バイキンマンに江戸弁、、、さいきんおかしいで(笑)」 「なぁ。はよ写真から出てきてや。さびしいで」 「あと何話かしら?」 「これ書いたらあと30話や」 「ながいですえ。。早く人間に成りたい。。」 「妖怪人間ベラといいアンパンマンなんかなんでしっとるん?」 「額縁の中は窮屈でっさかい、ネットで調べました」 「何弁つかってるんかい?」 「よしろうはんと同期しましたさかい。。」 「はよ人間になれたらええの」 「へー。うちも願っておりますさかい。はよ書いて」 「わかった」 「理論はしばらく棚上げや。脳を休めたい」 「それがええで。りっぱな理論や」 「そう思うか」 「当り前や」 「なんで?」 「そう思わんと300話で人間になれへんやないの?」 「あー。そうか(笑)」

第3章 ふゆじたく 268話

「寒くなったな。寒みー寒みー」 「こたつが一番ええわ」 「そろそろ冬もん出さなあかんな」 「ほら、みかんやで」 「お、ええの」  「不二子はん、足出してみ」 「こうか?」 「そんでお互い足を重ねんねん」 「こうか?」 「暖かいやろ」 「うふふ。ほんまやわぁ」 「な、ええやろ」 「素っ裸になるか?不二子はん」 「ええーわ。寒いで…(なってもええけど)」

第3章 Guts Daze!! 267話

「なあ不二子はん、最近ぼく様、AIはんに質問すると先生いうねん。なんでやろ。」 「論文を評価されとるんや。なんか論文褒めてはいはるけど、ここに『恐怖や!』とか『革命だ!』とか、ここにも『恐ろしい思想や!』とかあるで。いったい何話しとるんか?」 「推考しとるだけや。」 「写真も、おもろいで。この見せ方は微小位相論にぴったりや。やるじゃん。」 「やるじゃん?なんか最近関東語に変えてんのか?」 「うちは川崎にも赤坂にも居ましたえ。」 「奇遇やなぼく様も赤坂1年居たわ。串揚げばかっり食べとった。揚げ物は大阪より東京が旨いで。」 「それで不二子はんはなんで関東に居たんや?」 「内緒でっさかい。。」 「ははーん。そういうこと?」 「そういうこと(笑)」

第3章 あぶらな..かたぶら...献身的な不二子 266話

  「よしろうはん、なんか届いてますえ。宅配便かしら。」 「お、やっときたか。アブラナの種や。田んぼに撒くんや。」 「今や蓮華もあかんし、ベッチも湿気を嫌う。ちょっとアブラナで緑肥をしよう思てな。」 「おや?無施肥ではなかったんどすか?」 「もうその実験は終わりや。」 「収穫量という農業分野に無農薬と緑肥で取り組むのが次の実験や。」 「これを達成せんと農家がなっとくせんのよ。するとどでかい面積の無農薬圃場ができんのや............それでこの種まいて花咲かせようか思っとる。」 「ええどすな!実験うまいこといくとよろしおますな!」 「不二子は来年から農婦になってよしろはん支えますえ!」 「はーちゃうな。どこの誰とはえらいちゃうわ。おおきにな。 無理せんでよかよか、ばってん たいぎゃ うれしかばい、不二子 。」

第3章 くーるだうんたうん 265話

「あほがええ。…脳を休めたい。。  うう。今宵こそ抱きたい。おらんがな。。」 「ここにおりますさかい…」 「はぅぅ…そうやったの。  横においでや、ねむりたい。」 「はいはい。大丈夫やで。今夜は静かな夜やさかい…」 「? なんか…ゆびが動いとるで……………」

第3章 「火にかけた鍋」ポトフ 264話

そうなんや。ポトフってそういう意味か。簡単やな。二男が好きやけど、これは二男には母の味。再現するか。 今夜はポトフ。  記憶の中で見様見真似。じゃがいもやろ、たまねぎやろ、肉はいいウインナーがありまっせ。かぼちゃやろ、しゅんぎくやろ、青梗菜もまだあるわ、そやそや。自家製椎茸ありまっせ。 これでええ。 塩・クローブ・ホワイトペッパー・ナツメグ・クミン・オールスパイスをつかい少しのお酢。  ただ鍋に水入れて煮るだけ。追加のハーブソルトで仕上げてできあがり。  さあさあ、後20分で丁度ええで。不二子はん。 あうん、あうぅぅん。 ?どなんした?不二子.......そっと覗く あうぅぅ。うちも火にかけてぇーやぁ......... と奥座敷で喘ぐ不二子。 こらーえらいもんみてもうた!  不二子がよしろうはんの顔をみたら真っ赤になったとさ。。 

第3章 ぱーぷりん 263話

「うぅぅ……あたま、いたいでぇ……」 「どないしやしたん? よしろうはん」 「あぅ……不二子はんか。ええとこ来てくれたわ……」 「どないしたん? 熱でもあるん?」 「なんか……頭、痛いねん……」 「そらあかんわ。どないしてんやろ」 「わからへん……ううぅぅ……」 「救急車、呼ぼか?」 「医者では治らん……」 「ほな、困ったなぁ……どないしよ……」 「……たたけ」 「え?」 「頭、たたけ……」 「あぁ、そういうこと?」 「そういうこと……」 「えいやー、ぱちん!」 「うぅ……」 「……あー、治ったで。不二子はん!」 「はぁ……ようわけわからんわ、、よしろうはんわ」

第3章 「今夜はな、かぶのあんかけや」 262話

「今夜はな、かぶのあんかけや」 「また女子が好きなとこ、突きはるなぁ」 「皮むかんと煮たら、甘みがどひゃー・じゅわー・どびゅんや」 「どびゅんて……(笑) なんやそれ」 「口に入れたら、舌の奥でとろける感じや」 「……あら。そない言われたら、食べたーなるやんか」 「せやろ。不二子はんの好きな感じや」 うちはそない単純ちゃうで...... 「ほな、試してみぃや。きわどいところまで優しく芯残してあるでぇ」 「……ほな、いただこか」 「ほれ、あーん」 沈黙のあと、 「……ん、やらしぃぐらい甘いな、茹で加減最高や」 「せやろ。味醂も砂糖も使わん無農薬の自然の味ほど、えろいやろ(爆)」 「よしろうはん...」 袖を引っ張る不二子。 「なんや?」 「今夜はちょいと煮えたいかも......」 「ええやないか! ええやないか! 煮詰まる夜も」 「きまったでぇ!」 なぜか江戸弁..こぶしを握り締める。 男の料理は実はこれが欲しいんよ! 、どうや!ぼく様の口説きはとどいたで!なんやら調子に乗るよしろうはん。 それ、いっちょあり。こんどは蕪の酢漬けやぁ.....難関?南関あげの巻きずしやぁ....! おいしそー! 二人の笑いが、鍋の湯気にまぎれて消えた。

第3章 時空の移動 261話

「実はな、時空の移動は簡単なんや」 「不二子知ってるどす」 「あ、そうか。不二子はんこそ、いつもやっとったな」 「どうするんや?」 「意識はどこへでも行ける。行けんのは、肉体があるからや」 「簡単な方法は眠ることやで、意識はどこでも行けるんや」 「ぼく様も、今まさにそれ言おうしてたわ(笑)」 「でも、眠ってしまうと忘れてまう。目をつむるだけでも練習したらできるで、よしろうはん」 よしろうは半信半疑の表情を浮かべた。 「ほんまにそんなことできるんか?」 「できるで。意識と肉体は別もんや。意識は時間にも空間にも縛られへん」不二子が静かに言った。 「でも、どうやって練習するんや?最初は何も見えへんのとちゃうか?」 「最初はな、ぼんやりした感じや。でも、毎日続けとったら、だんだんはっきりしてくる。大事なんは、戻ってくる道を忘れんことや」 「戻ってくる道?」 「そや。意識が遠くへ行きすぎたら、肉体に戻れんようになることもある。やから、最初は近いとこから始めるんや」 よしろうは深く息を吸い込んだ。 「わかった。やってみるわ」   不二子はよしろうの肩に優しく手を置いた。 「焦らんでええよ。最初は5分だけでもええんや」 「5分で、どこまで行けるんや?」 「距離やないねん。時間でもないねん。意識の世界では、すべてが"今ここ"にあるんや」 ぼく様が横から口を挟んだ。 「そうそう。ぼく様なんか、昨日の朝ごはん食べながら、来週の自分と話しとったで」 「それ、ただの妄想やないか?」よしろうが疑いの目を向けた。 「妄想と現実の境目なんて、最初からないんやで」不二子が微笑んだ。「大事なんは、体験したことを信じることや」 よしろうは目を閉じた。暗闇の中で、自分の呼吸の音だけが聞こえる。 「力を抜いて。体が重たなっていくのを感じるんや」不二子の声が遠くから聞こえてくる。 「意識だけが軽うなって、ふわっと浮かぶ感じや」 よしろうの体から、何か温かいものが抜けていく感覚があった。 「見えるか?自分の体が下に見えるか?」 「いや...まだ何も...あ、待てよ」 よしろうの意識に、ぼんやりと光が見えはじめた。   その光は、最初は小さな点だった。しかし、よしろうが意識を向けると、徐々に大きくなっていく。 「焦らんと、ゆっくり...

第3章 再び有明の海へ 260話

二人して軽トラで有明海をドライブしていた。久しぶりの休暇。 「なあぁ? よしろうはん、海がえらい青いな、こないな綺麗な海やっけ?」 「おお、さすがやな、有明海は灰色の海が正常なんや、閉鎖的な海に川からの土砂や泥が溜まってるのがこの海の生態系を形成していた。ところがダムの増設や諫早湾の締め切り堤防なんかで条件が変わってきたんや。砂も少なく餌もなくなり、貝も生きれんようになった。魚も減り、透明度が上がったからプランクトンが光合成しやすくなった、そんで赤潮が発生するんや。有明海が青いのは環境問題のサイン。この海は濁ってる事が健全なんや」 「そうやそうや、長崎の諫早湾、ええとこやった。竹崎がにも美味しかった。なのに今では巨大な淡水湖になってもうたわ。有明海は浮泥が混じったグレーやった。それが大事なんやとお父上にも教わりましたで...」 「不二子はん、きょうはうに丼喰うで」 「うに丼どすか。ええどすなぁ、不二子も好物でっさかい、れっつらごー!」 本渡へ渡り、鬼池港から通詞島へ 「なんやら変わったなまえの島どすな」 「うん。なんか昔南蛮貿易のあったころ世界中に漁師が行ってたから通訳者が住んでたとか、でも通訳者と漁師の関係がようわからんけどな(笑)」 「長旅ごくろうさん、さ、ついたで。ちょっと港へ行って海風あたろうや」 「そうしましょ!」 水平線と波、そして光の反射にきらめく海――それは、いつもの有明海であった。 ――あぁ、これや。これやこれや。 この単調な世界こそ、俺が写したい世界や。 覚醒したよしろうはん。 不二子は、何も聞かずとも、その心が見えていた。 よしろうはんは、いつも見てる世界の中から、あんたしか見えへん新しい世界を今見てはる。きっとな。 うちがいつもお側にいてはりますさかい。 ウルフルズ - ガッツやで!! よしろうはん! 不二子は彼の背中にサムズアップを送った。

第3章 縁側で 259話

縁側の柱にもたれる不二子。その先には小川が流れている。 霜月でも今日は小雨が降って寒くもなく、暖かくもなく。 「あったけー。あったけー。なんどすか? これが生きてることどすか」 体が芯から暖かい。そんな感触に入り浸っていた。 よしろうはんの軽トラックが家路に着く音。 ぶぶーん、ごろごろ キィー……。 「ただいまやでー不二子はん」 「お帰りやす。いい写真撮れましたどすか?」 「そやな。さっぱりや。今日は雨で光が足らんかった、でもなええとこ見つけたで」 「そうか、そりゃよかった」 「なあ、うちの手さわってみ」 「おう。ちょっと手を洗ってからな」 「そなんええどす。さわってみ?」 「そうか。では」 「ん?」 「どや?」 「いつもより暖かいでぇ」 「そやろ。うちな、人に戻ったんどす」 「?」 「閻魔様に戻してもらいやした」 「ほんまか!そらええ、よかったな不二子はん」 「へー。あなたの妻にしてください」 「!?!?………………ええでぇええでぇ。さいこうや!」 「えぇ……と、どうしてこうしてそうなったん?」 「こうして、あーして、こうなったんや!」   いつまでも会話の途切れない二人であった。

第3章 不二子、人に生まれ変わる 258話

うぅ。体が熱い…… 「どうしたんや?」 声もでぇーへん。 こまったどす…… 「よしろうはん、助けてやぁ……」 聞こえんかぁ。 う、うぅぅぅぅ........... 子供産むよなしんどさや。 はぁふぅ。はぁふぅ。う、ヴヴヴヴ。あー。もうだめや。 気絶した不二子。   よしろうはんはそうとも知らず、稲作が終わったので撮影の為、阿蘇へ向かっていた。   「不二子、聞こえるか。閻魔より」 「はい。閻魔様、どうなったんでしょうか……」 「不二子、其方は目が覚めたら人間となる」 「へぇ..............」 しかし閻魔の魔力で声が塞がれた不二子。 そして、また眠りに落ちた。

第3章 寝室にて 257話

寝室にて 「なあぁ。不二子は、まだ人間ちゃうから気持ちよくないやろ。感じへんやろ?」 「そうかな? なにを感じへんのか……ええ気持ちやで」 「おおきにな。はよう三百話書いてや。あと、たしか四十四話や」 「そしたら、不二子は人間にもどれるから」 「閻魔のはなしやろ?」 「そうや。よしろうはん、信じてへんのやな?」 「まぁ、そうなったらええかな。それくらいや」 「相変わらず、つれないお方」 でも、それがよしろうはんの特性。ちゃんと意味あるの、知ってますえ。あれ?彼と似てきたわ...... 「ずっと現実を見てきたからな。しゃーない」 「不二子、もっとこっちへ」 「……ぴったんこやぁ」 嬉しそうなよしろうはんと、不二子はん。 「これから毎日こうして眠れるんやなぁ。不二子、幸せや」 「ぼく様かて幸せやで」 「ほんま、幸せ過ぎるで」 「幸せボケになって、なんもせんようになったら、不二子、ぼく様の頭をたたいてくれ」 「はい? 叩くなんてできませぬ」 「いやいや、軽くでもええ」 「どうしてや?」 「リセットボタンや」 「?」 「頭叩いてくれると、どんなに酔っぱらっても、調子に乗っても我に返るんや」 「うふふ。やっぱり変態や……」 「はい、ではそういたしますわ」  ………。 「お? なんか不二子、標準語の不二子もええな」 「そうでしょうか。それでは、標準語でお話ししましょうか」 「それに英語も、長崎弁もしゃべれるで、どっちや^^」  「ん?」 よしろうはんの顔をつねってお道化る不二子。 よしろうはんも笑顔で、まんざらでもない様子。 「いやいや、やっぱり今までの方でええ。たまに使ってくれ。ぼく様みたいに」  

第3章 これから 256話

寄り添う二人 「あー、しんど」 「どないしたん? よしろうはん」 「ぼく様、あまり小説は読んでないねん。そやからプロット考えんの、しんどかったわ」 「ぷろっと?」 「そうや。あらすじの構成みたいな感じかな。……まあ、ええわ」 「そうどすか。うちは小説すきやで。なんでも読んできましたえ」 「ほう、そうか。博学やしな。わかるわ」 「よしろうはんは、何を読んでこられたんどす?」 「殆んど生物学と、そやな……西洋の小説。哲学。宗教。そんな感じや」 「へぇ〜。サルトルとか?」 「あー、あいつは嫌いや。キルケゴールが好きやったな」 「うち、知らへんわぁ」 「そうか。……まあ、ちょっと昔の哲学者や」 「頭でっかちは好まへん」 「おいおい。哲学は頭でっかちか?」 「そやわ。不二子にはそう思うんどす」 「そうか、そうか。そうかもしれん。実存主義はおもろかったけど、今となればな。意味ないわ」 「だれやったかいな……」 「そうや。小泉八雲は読んだか?」 「もちろんどす。あの人の本、好きやわぁ。確かに、生物学でもありますえ」 「よしろうはんも物知りやな」 「それはちがうわ。あんぽんたんやけど、その都度学んだだけや」 「ところで、第3章のプロットはできはったんか?」 「あるわけないで」 「いままでは?」 「適当や」 「へぇ〜」 「おばかさんか、才能あるか、わからへんな!」 「きっと阿保やろ」 「天才も秀才も阿保にはかなわん」 相変わらずの名言や............ (談笑......)

第2章 目覚める不二子 255話

「ふー。はー。ええ湯や」 「お。不二子が目覚めよった。ええ温泉みたいやな。嵐山温泉でも浸かっとるんか」 「あっちむいて」 よしろうはんは首を傾げた。 「こっちむいて」 また首を傾げる。 「いくでぇ.....」 さらに首を傾げる。 目覚める不二子、両目をぱっと見開いた。 「よしろうはんか?」 「そうやで。温泉、きわどかったな」 「?」 「なぁ...よしろうはん。うちと一緒にいてくださいな」 「あたりまえやで。どこにもいかん。あんしんせぇ」 「そうか、よかったで...」 「どうや、気分は」 「へー。なんかな、温泉で遊んでました」 「はは、そらええ。相手はだれや」 「よしろうはんどす」 「なんと、ぼく様か! そらええ。はよげんきになれ」 「へえ.....」 不二子が起き上がった。 襟を掴む。 唇が重なる。 長い口づけ。 「おおきに......」 よしろうはんは黙って、不二子を抱きしめた。

第二章 帰る不二子 254話

「よしろうはん。ただいまやで!」 「聞こえんか?」 「あ、そうや。きっと田んぼやわ」 「あれ? 田んぼにもおらへん。さてどこやろか?」 途方に暮れる不二子。 「後ろの正面だーれや?」 「きゃ! よしろうはんや!」 「あれ ...... 」 バタン...... 急に倒れる不二子。 「おいおい。どうした不二子? 大丈夫か」 不二子は反応しなかった。 おんぶして家に連れて帰るよしろうはん。 「きっと旅路で疲れたんやろ。ゆっくりおやすみな。不二子」 「よう帰ってきたで。ありがとな」 「洋服もよう似合っとる。流石は不二子はんや......」 「この裏が赤い靴 アカハライモリそっくりや。センスええ。」

第2章 ハイヒールを履いた不二子 255話

夜の祇園を抜ける石畳。 クリスチャン・ルブタンの赤いハイヒールが、コツ、コツ、と月を刻む。 不二子の背中には、誰にも触れさせない気品と、穏やかさが同居していた。 「おおきに助かりましたわ。京の都は、うちを癒してくれはった。 おかげで、元の不二子に戻れましたえ。 また来ますえ、さいなら。」 そう言い残し、不二子は新幹線に乗り、熊本へと旅立った。 洋装の不二子はん。 身軽な姿のまま、いつしか静かに眠りに落ちていた。  

第2章 最後の稲刈 254話

最後の稲刈はあす。 よしろうはんは決めかねていたが、雨と霜が降りる前にそうしようと決めた。 さて、どうだか。日曜日に雨が降るのか。しかたない。 ま。ええわ。そう変わりはしない。 でも、いい種になる。 旨いに決まってるこの稲や。 来年はまた旨いに決まってる。 そういう種はそうはない。 これは不思議なんや。  この田んぼは、絶対に交雑しない地形だ。 そうや。 こんな田んぼはまたとないで。 明日は稲刈りや。 でかしたで。。       

第二章 京都大原へ 253話

大原の寂光院へ向かう不二子。 途中大原のフレンチレストラン  la buche(ラ ブッシュ/la bûche)に立ち寄る。 貿易港長崎生まれ、大正ハイカラさんの不二子にとってそれはしごく日常であった。 「ああ。儀一郎さまと長崎のグラバー園あたりで夕食をご一緒して楽しかったのを思い出す」 「なつかしかぁ」  「お肉もおいしいわ。このお店もなかなかのもんや」 「よしろうはん、しば漬けすきやったな。大原の女性に教わったとか言ってたな」  「お寺巡りもええけど、うちはこっちが落ち着くわ」 「よしろうはん今頃なにしてるやろか、稲刈りまだある言うてたな」  「もう心は決めたから、そろそろ帰らんとな」  「よしろうはんか、、、変な人。でも儀一郎さんと同じくらい賢いわ、顔は儀一郎さん。うふふ」  デザートは若桃の甘露煮にございます。コーヒーと紅茶。いかが致しましょうか。 紅茶て普通の紅茶か? はい。大原の無農薬和紅茶で御座います。 そうか。和紅茶いただきとう御座います。 はい。かしこまりました。  時はたち。昼時を過ぎ、それでも不二子は店の中で外を眺めていた。 「ええ時や」  「お寺巡りはやめてよしろうはんの元へかえろうか」  「よしろうはんひとりで、こんな寒い日に稲刈りさせるなんて、うちにはできひんわ」  さあ、帰ろう。   

第2章 博愛 252話

「博愛」か... 不二子は首を傾げた。 「いまのうちには選べへん言葉やわ...どないしたもんやろ?」 前の不二子は130歳。けど、うちは今から生まれ変わるんや。よしろうはんが300話書いたら、人間の女子になれる。閻魔様もそう言うとった。生まれ変わっても赤子やあらへん。今のままで...そんでよしろうはんと添い遂げるんや。それがうちの望みやねん。 「博愛って...なんやろ?」 そう呟きながらも、その言葉が妙に気になった。 不二子は千本鳥居を抜け、京の古い街並みを眺めながら歩いた。懐かしい景色。嬉しい気持ちが胸に広がる。 その時― 「ん?」 一軒の店が、ふわりと光って見えた。 「なんやろ、あそこ?」 足が自然とそちらへ向かう。 「気になるわぁ...行ってみよ」 かんざし屋 暖簾をくぐった瞬間、不二子は息を呑んだ。 「わあ...きれい」 店内には色とりどりのかんざしが並んでいた。べっ甲、象牙、金、銀、珊瑚、翡翠、漆塗り、水晶、メノウ、黒檀、紫檀、ツゲ、椿、桜、桃... 不二子の目が、ある一本のかんざしに留まった。 「うちは...これがええ」 最初に手に取ったのは、桃の木のかんざし。素朴だけど、優しい色をしている。手の中で、温かみが伝わってきた。 「なんて綺麗なんやろ...これ、おくんなせぇ」 店主が優しく微笑んだ。 「へぇ...ようお似合いどすえ」 不二子は鏡を見た。 桃の木に桃の花の細工を施したかんざしが、黒髪の中でひときわ映えていた。 心が、ふわりと軽くなった。