第4章 近景の旅 315話
温泉から上がった二人は、ホテルのレストランで食事を済ませ、阿蘇の夜峰山へ向かった。 普通なら歩いて登る小高い山だが、農道の裏道を使い、行けるところまで、よしろうは車を走らせた。
「ええんか? よしろうはん。こんなとこに車、停めて」
「ええんや。地方のカメラマンはいちいち歩かへん。注文が多いねん。次から次へ撮らなあかん。常套手段や」
「……」
「軽トラやったら、誰も疑わん。そんで、これ乗ってんねん。 人には見えてるけど、ハリーポッターの透明マントやで(笑)」
「あーあ、阿保なお方(笑)」
「さ、もうちょい上や。ここから歩こか」
「へー」
くすくす。
「……なに笑ろとんねん?」
「なんでも変わってはるなぁ。あんさん、ほんま飽きんわ(笑)」
少し山頂へ歩いたところで、よしろうが指を差した。
「ほら、見えたで! 長崎も、阿蘇の平野も、大分も、みんな見えるで!」
ひゅーひゅー。
あはは。
うふふ。
不二子が叫ぶ。
「綺麗やー! でぇー、普賢だけー、あたいのながさきー!」
「えーの!」
あはは。
わはは。
「さ、帰るでぇ」
「なんでや? てっぺん、登らへんのか?」
「ああ、興味ない。此処が唯一無二の眺めやで!」
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