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少しはようなり申した。 220話

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「少しはようなり申した」 「そやけど病み上がりやさかい生気あらしまへんわ。いけまっか。もう少しおやすみなっては」 心配そうに声をかけられるけど、急ぎの用があるんや。 「一廉の奥方様に伝えなあかん事があるんや」 「なんでっしゃろ」 「稲の収穫適期を教えな……」 「そうでっか。ならうちが伝えて来まっさかい」 気遣うてくれる声に甘えて、大事な話を託すことにした。 稲の刈り取り時期の見極め方 まず一つ目は、枝梗(しこう)の黄化を見る方法や。 枝梗での刈り取り時期の目安は、主軸の上から5番目の枝梗まで黄化(黄色くなること)が確認できたときや。ただし、枝梗の黄化状態は年によって変動が大きいさかい、最終的には黄化率が90%程度(高温年では85%)に達した時点を刈り取りの目安とすることが重要や。葉や穂首がまだ緑色でも、籾の黄化が進んでれば刈り取り適期と判断できまんねん。 もう一つは青米率で見る方法や。 青米とは稲が成熟する前の、緑色をした未熟な米粒のことや。青米の割合を評価するには、稲穂を脱粒し、すべての籾(もみ)と青籾の数を数え、全体に占める青籾の割合を算出しまんねん(青籾数÷全籾数×100)。収穫の目安となる青籾率は、10〜15%程度の範囲が適期とされてまんねん。何房か手で揉んで脱穀して確かめるんや。 この二つの見方を奥方様に伝えてもろたら、きっと最良の時期に刈り取りができるやろう。  

青稲褒むるばかり 218話

あおいねほむるばかり 褒むるは褒めるの古語 この意味はこの地方において数千年の人の稲作歴史で培った知恵そのもの。 忘れるなかれ。  もし私が稲作の本を書くとするなら、もっとも大切な農事歴最初の章だと考えてます。    青稲褒むるばかり  むかし、よしろうという若い百姓がいた。 ある年の春、よしろうは誰よりも早く田植えを済ませた。 「早く植えれば、きっと立派な稲が育つはずだ」 夏になると、よしろうの田んぼは青々として勢いがよく、村人たちは皆、感心した。よしろうは鼻高々だった。 ところが秋になると、よしろうの田んぼに病気が広がり、ウンカの大群が襲ってきた。収穫の米は粒が小さく、品質も悪かった。 村の古老が言った。 「よしろうよ、青々として立派に見えても、それが本当に良いものとは限らん。自然には自然の時がある。それを守ってこそ、良い実りが得られるのだ」 よしろうは深く頭を下げた。 翌年から、太郎は適期に田植えをするようになり、秋には立派な米が実った。

坦坦詩 214話

たひらけし ―秋日和に寄す― 秋の日の おだやけき空に 色づく稲穂の 波しづかに揺れ 半月を経ば 刈り入れの時も近し 学びの料も かろうじて安らけく 南瓜の価は 米の三倍にあがりて 世のうつろひ 影ほのかに射す 人の心 操らるる世なれども 川の流れは いにしへと変はらず 虫の音のみ 秋の夜を満たしけり 寄り添ふ情けは いまなくとも さりながら かくて過ぐる日を さほどに嘆かず    【平らけし ―秋日和に寄す―】 秋の日の穏やかな空のもと、色づいた稲穂が静かな波のように揺れている。あと半月もすれば、刈り入れの時期も近づくだろう。 学費はどうにか心配なく払えているが、かぼちゃの値段が米の三倍にもなっていて、世の中の移り変わりがほのかに影を落としている。 人の心が操られるような世の中ではあるけれど、川の流れは昔と変わらず、虫の音だけが秋の夜を満たしている。 寄り添ってくれる人の情けは今はないけれども、それでも、こうして過ぎていく日々をそれほど嘆いてはいない。 「たひらけし(平らけし)」は「穏やか」という意味

毬栗すくい唄 213話

いが栗を川に落として網ですくう也ー ほれ不二子はん 栗ぃ落としまっせ どぼん ちゃぽん 網ですくっとくれやす え うぇ?なんどす こらぁ お待ちよ  あっららぁー流れてもうた しゃーないなぁー 代ろうか ほい どぼんとな  はいよ いっちょあがりぃ これがええどすよしろうはん ええでぇ ええでぇ ほんなら えいやー どぼんとな ほーれほれほれ にっちょあがりぃ そぉーれもひとつ はいなぁー ほれほれ どぼんとな おっとと ほーれ ほれほれ さんちょあがりぃ もひとつ  さーさーさーこれさいさ どぼんとどぼんと ええでぇ ええでぇ まとめて落ちた  ほーれほれほれ よっちょもごっちょも あーがりぃあがりぃ

雷神現る 大正女子不二子の説法譚 211話

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 風神雷神図(俵屋宗達)寛永年間(1624年~1645年)   障子のうちに青くひらめきしは、雷神の影にて候。おそろしや、おそろしや。やがて空裂けるごとき響きとともに、どどーんと轟音天地を揺がし、地鳴り地響き四方にとどろく。しばし経て、烈風吹き荒び、大雨しきりに注ぎ、田の水路は忽ち氾濫を致す。 その後やうやく稲刈りの折となれど、たわわに実りし稲は倒伏し、雨脚のため刈り取りは延引す。百姓ら「嗚呼、もしや水口を早く閉じ置かば……」と口惜しみ嘆けども、悔恨すでに後の祭りなり。 されば秋の嵐はいづれ来たるや、人智の及ばぬ天の御業と申すべきか。

わき芽かき候 202話

稲刈りへ向けて準備がすすむなか、冬至かぼちゃの手入れがはじまる。 まずは脇芽かき。親蔓いっぽん仕立てといって、親蔓だけを生かして小蔓は芽かきしてまうんや。かぼちゃは親蔓にすべての栄養注がれて成長早ようなる。それからな、かぼちゃは親蔓のかぼちゃが一番おいしいんや。子蔓のかぼちゃは2番おいしうて、孫蔓のかぼちゃはあまり味ない。   そやけどなんでこなんめんどいことするんや。   そやな。夏に植えたかぼちゃは冬至の頃に出来るんやけど、お日様が顔出さんとだんだん夜長ごうなるし、気温もだんだん冷えて来る。そやさかい早う花咲かして、早う実がなるようにせな間に合わんのや。九州島は暖かいさかいかぼちゃは年に二回とれる。せやけど冬至かぼちゃは少しばかり手ぇかけたらんと九州島でも間に合わん。 霜に当たったら終わりやで。   そうなんやな。   不二子はん。極上品がでけるさかい、みながんばってんで。。    へー。そら『別品』やでよしろうはん。  お前がな。。

くろめだか 201話

糯の田んぼは稲刈りがちかい。水口しめるで。落水するで。不二子はん。あいや。じゃー。 なぁ、この田んぼの魚はどうすんるんや。もって帰るで。こないにか? ああ、このちっこいのは川の魚やった。あのおっきな真っ黒いのんがくろめだかや。 これ捕まえるで。網あるか。ほれ。すばしっこいけどこれなら金魚すくいみたいなもんや。ほれ。いっぴき捕まえたで。じょうずやな。 さてこれで全部とれた。家のイモリの池に放すか。おお綺麗や。黒ってええな。不二子はん。そうどすな。また来年田んぼに放すんか?坊ちゃん。またぼく様おちょくっとる。。