青稲褒むるばかり 218話
あおいねほむるばかり 褒むるは褒めるの古語 この意味はこの地方において数千年の人の稲作歴史で培った知恵そのもの。 忘れるなかれ。 もし私が稲作の本を書くとするなら、もっとも大切な農事歴最初の章だと考えてます。 青稲褒むるばかり むかし、よしろうという若い百姓がいた。 ある年の春、よしろうは誰よりも早く田植えを済ませた。 「早く植えれば、きっと立派な稲が育つはずだ」 夏になると、よしろうの田んぼは青々として勢いがよく、村人たちは皆、感心した。よしろうは鼻高々だった。 ところが秋になると、よしろうの田んぼに病気が広がり、ウンカの大群が襲ってきた。収穫の米は粒が小さく、品質も悪かった。 村の古老が言った。 「よしろうよ、青々として立派に見えても、それが本当に良いものとは限らん。自然には自然の時がある。それを守ってこそ、良い実りが得られるのだ」 よしろうは深く頭を下げた。 翌年から、太郎は適期に田植えをするようになり、秋には立派な米が実った。