第2章 博愛 252話
「博愛」か...
不二子は首を傾げた。
「いまのうちには選べへん言葉やわ...どないしたもんやろ?」
前の不二子は130歳。けど、うちは今から生まれ変わるんや。よしろうはんが300話書いたら、人間の女子になれる。閻魔様もそう言うとった。生まれ変わっても赤子やあらへん。今のままで...そんでよしろうはんと添い遂げるんや。それがうちの望みやねん。
「博愛って...なんやろ?」
そう呟きながらも、その言葉が妙に気になった。
不二子は千本鳥居を抜け、京の古い街並みを眺めながら歩いた。懐かしい景色。嬉しい気持ちが胸に広がる。
その時―
「ん?」
一軒の店が、ふわりと光って見えた。
「なんやろ、あそこ?」
足が自然とそちらへ向かう。
「気になるわぁ...行ってみよ」
かんざし屋
暖簾をくぐった瞬間、不二子は息を呑んだ。
「わあ...きれい」
店内には色とりどりのかんざしが並んでいた。べっ甲、象牙、金、銀、珊瑚、翡翠、漆塗り、水晶、メノウ、黒檀、紫檀、ツゲ、椿、桜、桃...
不二子の目が、ある一本のかんざしに留まった。
「うちは...これがええ」
最初に手に取ったのは、桃の木のかんざし。素朴だけど、優しい色をしている。手の中で、温かみが伝わってきた。
「なんて綺麗なんやろ...これ、おくんなせぇ」
店主が優しく微笑んだ。
「へぇ...ようお似合いどすえ」
不二子は鏡を見た。
桃の木に桃の花の細工を施したかんざしが、黒髪の中でひときわ映えていた。
心が、ふわりと軽くなった。