微小位相差論―世界の複層的現前に関する試論
微小位相差論―世界の複層的現前に関する試論
本稿の目的は、世界を単一の客観的実体として捉える近代的世界観から離れ、存在が複層的に現前するという立場を提示することである。ここで「微小位相差」とは、対象そのものの変化ではなく、観測主体の意識的立脚点が微細に移動することによって生じる、世界像の差異を指す。重要なのは、位相差が錯覚や主観的解釈に限定されるものではなく、現象が成立する条件そのものとして作用する点である。すなわち、世界は一義的に存在するのではなく、意識と対象の重なりによって選択的に立ち上がる。
従来の科学は、観測主体を価値中立的な外在者として扱い、観測結果を普遍化することで世界の法則性を抽出してきた。相対性理論は観測者の物理的立場—速度や重力場—によって時空の構造が変動することを示し、観測の相対性を認めた点で画期的である。しかし、そこで想定される観測者はあくまで物理的存在であり、意識の状態や感情、意図といった内的要因は理論の外部に置かれている。本論は、この外部化された意識を理論内部へ再導入し、観測を成立させる「立場」そのものを拡張的に捉える。
微小位相差論によれば、世界は固定的な「実体」ではなく、重層的な位相場として存在する。観測主体の意識がどの位相に一致するかによって、同一の対象が異なる意味として現れる。これにより、「世界が変わる」のではなく「世界として現れる層が変わる」と考えることが可能となる。感情や意図は単なる心理現象ではなく、どの現実層を選択するかを決定する媒介因である。
本理論は、物理学を否定するものではない。むしろ、物理法則が記述する世界を、意識の位相を含むより広い枠組みに包摂する可能性を持つ。もし意識位相を定量化し、物理観測結果との相関を数学的に表現できるなら、相対性理論は破棄されるのではなく、上位理論に包含されるだろう。世界は単一の時空ではなく、意識と対象の微小な差異が織り成す多層的存在である。本稿は、その理論的基盤を提示する初歩的試論である。
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