世界は「ズレ」でできている——微小位相差理論のはなし  わかりやすく

世界は「ズレ」でできている——微小位相差理論のはなし

新川芳朗
京都芸術大学大学院 写真映像領域

池に石を投げたことはありますか?

突然ですが、池に石を投げたことを思い出してみてください。

水面に広がる波紋。もう一つ石を投げると、二つの波紋が重なり合って、複雑な模様ができる。波の山と山がぶつかれば大きな波になり、山と谷がぶつかれば消え合う。

この「波のズレ」が、実はこの世界のすべてを作っているとしたら?

それが、僕が研究している「微小位相差理論」の出発点なんです。

すべては「差」から始まる

「熱い」って、何でしょう?

100℃のお湯は熱いですよね。でも、もしあなたの体温が90℃だったら? たぶん、そこまで熱く感じないはず。つまり「熱さ」は、絶対的な温度そのものじゃなく、**あなたの体温との「差」**によって生まれている。

色も同じです。同じグレーの四角が、白い背景では暗く見え、黒い背景では明るく見える。色そのものは変わっていないのに。

美味しさも? 高い音・低い音も? よく考えてみると、僕たちが感じるもののほとんどが、「絶対的な何か」じゃなく、**何かと何かの「差」**なんです。

世界は、絶対的な「何か」じゃなく、「差」や「ズレ」で成り立っている。

これが、この理論の核心です。

見えない「絶対」

ここで、ちょっと不思議な話をします。

この理論では、絶対的な「位相」そのものは、原理的に観測できない。観測できるのは、常に「位相の差」だけ。

量子力学を知っている人なら、「あ、不確定性原理みたいなやつ?」と思うかもしれません。そう、似ています。電子の位置を測ろうとすると、測った瞬間に電子の状態が変わってしまう。それと同じように、僕たちが「現実」と呼んでいるものの背後には、**原理的に触れることのできない「何か」**があるんです。

これ、哲学的にはかなり深い話です。

僕たちが見ている世界は、実は「関係性」と「差異」の網の目であって、その奥にある「本当の実体」には、永遠に手が届かない。でも、だからこそ、この世界は豊かで多様なんじゃないか——そう考えています。

五つの層で世界を見る

この理論は、数学的には五つの層で構成されています:

1. 時間の層
位相が、時間とともにどう変わっていくか。「昨日の自分」と「今日の自分」のズレです。

2. 空間の層
場所によって、位相がどうズレているか。「ここ」と「あそこ」の違いです。

3. 相互作用の層
位相が、自分自身とどう影響し合うか。システムの中で、要素同士がどう絡み合うか。

4. 情報の層
認知や学習、つまり「僕たちがどう世界を理解するか」も、この枠組みに入る。

5. トポロジーの層
渦や特異点みたいな、「飛び飛びの構造」をどう扱うか。連続じゃない、デジタルな感じのやつです。

この五層が統一的に組み合わさると、物理現象から、思考、社会現象まで、同じ言葉で説明できるようになります。

どこまで使えるの? この理論

超伝導とか、超流動とか

極低温で起きる不思議な現象。電気抵抗がゼロになったり、摩擦がゼロになったり。これ、実は無数の粒子の位相が完全に揃うことで起きてるんです。まさに位相差の魔法。

あなたの「意識」も

脳の中では、何千億というニューロンが電気信号を送り合っています。これらの信号の位相が、ピタッと揃ったり、ズレたり。そのダイナミクスが、あなたの「意識」を生み出している——そう考えることができます。

デジャヴ(既視感)って、ありますよね? 「あれ、この光景、前にも見たような...」ってやつ。あれ、もしかしたら、異なる時間の記憶の位相が、一瞬だけシンクロする現象なのかもしれない。

流行や、世論も

SNSで情報が拡散するとき。ある意見が急に広まるとき。これも、人々の「意見の位相」が徐々に揃っていく過程として見ることができます。

最初はバラバラだった波紋が、だんだん同期していく。そして、臨界点を超えると、一気に大きな波になる。これが「バズる」瞬間です。

写真で証明する

さて、ここからが僕の本業の話です。

僕は写真を作っています。でも、普通の写真じゃない。二枚の画像をペアにして見せることで、観る人に「微小な位相差」の感覚を生じさせる——そんな技法を開発しています。

普通の写真は、「これが現実です」と一枚の画像で主張します。でも、この理論からすると、それは「一つの位相」を固定しているだけ。

二枚の微妙に違う画像を並べると、その「ズレ」の中に、もっと深い何かが見えてくる。それは「存在」そのものじゃなくて、**「存在の揺らぎ」「関係性の変化」**なんです。

AI時代になって、「写真って、もう真実じゃないよね」って言われます。でも、僕から言わせれば、従来の写真もAI画像も、どっちも「位相差の表現形式」に過ぎない。

大事なのは、作者の意図(位相構造)が、どう可視化されているか。そこなんです。

なぜ今、この理論が必要なのか

僕たちは、「正解」を求めすぎています。

「絶対的に正しいこと」「唯一の真実」——そんなものを探して、見つからなくて、苦しんでいる。

でも、この理論は言います。現実は固定されていない。常に関係性の中で揺らいでいる。

そう考えると、ちょっと楽になりませんか?

あなたの意見と、僕の意見。その「ズレ」こそが、新しい発見を生むんです。異なる視点の「位相差」が、創造性の源なんです。

量子コンピュータも、脳の研究も、AIも、最先端の分野はみんな「位相」の制御がカギになっています。この理論は、それらを統一的に理解する枠組みになるかもしれない。

夢から始まった理論

実は、この理論、夢から始まったんです。

予知的な夢を見たり、デジャヴを繰り返し経験したり。「なんだこれ?」って思いました。でも、そこに何かパターンがある気がして。

脳内の映像を考えて。それを数式に落としていって。気づいたら、物理も、意識も、社会も説明できる統一理論になっていました。

これ、単なる机上の空論じゃない。僕が日々経験している「現実」そのものを、言葉にしようとしたものです。

おわりに:ズレを楽しもう

すべては「ズレ」から始まる。

そのズレこそが、世界の豊かさと多様性を生み出している。

あなたと僕の「ズレ」。昨日と今日の「ズレ」。ここと、あそこの「ズレ」。

そのすべてが、新しい何かを生み出す可能性を持っています。

だから、ズレを恐れないでください。ズレを楽しんでください。

それが、この理論から僕が受け取ったメッセージです。


このブログは、"Theory of Micro-Phase Differences: A Unified Mathematical Framework"(微小位相差理論:統一的数学的枠組み)の一般向け解説として書かれました。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ論文も読んでみてください。

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