第12章 蚊柱 596話
私が宇宙や生命を感じるのは蚊柱を見るときである。
ユスリカの大群が球体となって夕刻に現れる。
光が逆光で羽が光り、体は黒く見え蠢く球体。
「お母様、あれ見て。」
アルマーは空を指さした。
「ユスリカやね。」
「虫があんなに集まると、まるで一つの生き物みたい。」
不二子はんはしばらく黙って見上げていた。
「一匹では見えへんもんが、集まると見えてくるんや。」
「何が見えるんですか。」
「命や。」
アルマーはもう一度、黒く揺れる球を見た。
「虫なのに?」
「せや。小さな命がようけ集まると、大きな命みたいになる。」
アルマーは見つめた。
「よしろうはんが宇宙を感じる言うた意味、少しわかった気がする。」
不二子はんは夕焼けを見たまま言うた。
「宇宙は遠い空にあるだけやない。足元にも、こうしてあるんや。」