第11章 マリアの蜜月 546話
神父とマリアは寝た。
修道院の裏の部屋で、幾度も。
神父は翌月、北方へ転任した。
マリアは残った。
よしろうはんが初めてその町へ来たのは、その一月後だった。
修道院の近くの道で、マリアとすれ違った。
よしろうはんは立ち止まり、言った。
「おつとめ、ご苦労さまです」
マリアは頭を下げた。
「ありがとうございます」
よしろうはんはマリアを見た。
マリアも、よしろうはんを見た。
よしろうはんは歩き出した。
それから、週に一度その道を通った。
いつも同じ時刻に来て、同じ道を戻った。
ある日、マリアの腹が少し膨らんでいた。
さては。
様子もどこか違っていた。
よしろうはんは聞いた。
「ご懐妊ですか」
「はい」
「おめでとうございます」
マリアは少し驚いた顔をした。
「ありがとうございます」
しばらく二人とも黙っていた。
雨が降っていた。
細い雨やった。
よしろうはんが言った。
「父親は」
マリアは下を向いた。
「言えません」
「そうですか」
それ以上は聞かなかった。
マリアも何も言わなかった。
ただ、その沈黙だけで、だいたいのことはわかった。
よしろうはんはコートを着直した。
「また来ます」
「はい...」
よしろうはんは歩いていった。
マリアは修道院へ戻った。
まだ雨は降っていたが、西日が差し込んだ。
二つの虹が掛かっていた。