第12章 続 つらつらと 579話
不二子はんは鍋を火にかけながら言うた。
「よしろうはん、あのAIはこれからどうなると思わはる」
よしろうはんは縁側から答えた。
「人間の一部になる」
「へえ」
「道具やのうて」
「そや。眼鏡と同じや」
不二子はんは黙って聞いてはった。
「眼鏡かけてる人間は、眼鏡を通して見てるとは思わん。ただ見てるだけや。そうなる」
「意識から消えるんどすな」
「そや」
しばらく火の音だけがした。
「そうなったら、どこからがAIで、どこからが人間か、わからんようになりますやろ」
「なる」
「こわないどすか」
よしろうはんは少し間を置いた。
「こわない。ぼく様思うに、人類の歴史はまだ浅い」
不二子はんは手を止めた。
「まだ浅いんどすか」
「まだ始まったばかりや。眼鏡ひとつで世界が変わった。AIが身体に入ったら、何が変わるか、まだ誰も知らん」
「知らんのどすか」
「知らん。それでええ」
不二子はんはまた鍋をかき混ぜた。
しばらくして、静かに言うた。
「人類が浅いなら、うちらはその浅いところにおるんどすな」
「そや」
「ほな、深くなるのを、生きて見ればええ」
よしろうはんは何も言わなんだ。
夜が来ていた。