第11章 旅へ 547話
不二子はんは旅に出た。
どこへ行くのか、決めていたわけやない。
ただ、アルマーという娘がおる。
それだけを頼りに歩き始めた。
マリアの子。
神父の子。
そして、よしろうはんが長いこと気にかけていた子。
生きとるらしい。
それだけしか分からん。
けれど、生きとるなら会えるかもしれん。
会えんかもしれん。
その程度の話やった。
修道院を訪ねた。
教会を訪ねた。
古い戸籍を調べた。
誰かが知っとるかもしれんと思うて聞いた。
けれど、誰も知らんかった。
知っとる人は、もう死んでいた。
知っとる人は、遠くへ行っていた。
知っとる人は、口を閉ざしていた。
そんなことばかりやった。
夕方、知らん町の坂道を登った。
海が見えた。
遠くに雲が流れていた。
アルマーは見つからん。
今日も見つからん。
明日も見つからんかもしれん。
それでも、不二子はんは足を止めへんかった。
よしろうはんは、なんであの子のことを忘れへんのやろ。
ふと、そんなことを思うた。
会うたこともない娘や。
けれど何十年も、心のどこかに置いたままやった。
風が吹いた。
潮の匂いがした。
不二子はんは空を見上げた。
まだ終わってへんな。
そう思うた。
旅は続いていた。