第11章 手がかり 550話

修道院は廃墟やった。 石の壁だけが残っとった。 屋根はなかった。 窓枠もなかった。 草が石の間から生えとった。

不二子はんは中に入った。

広場のようなところに出た。 かつては礼拝堂やったのやろ。 祭壇の台座だけが残っとった。 十字架はなかった。

静かやった。

風が通った。 草が揺れた。 それだけやった。

不二子はんは台座の前に立った。 何を祈ればええか分からんかった。 祈らんかった。 ただ立っとった。

隅に小屋があった。

石造りの小さな建物やった。 扉が半分開いとった。 中をのぞいた。 棚があった。 棚の上に箱があった。

埃をかぶっとった。

不二子はんは箱を手に取った。 重かった。 木の箱やった。 蓋を開けた。

帳面が入っとった。 何冊も。

文字は読めんかった。 言葉が違うた。 けれど、名前は読めた。 名前だけは、どこの言葉でも名前やった。

ページをめくった。 めくった。 めくった。

あった。

Maria。

その下に、小さな字で。

Alma。

不二子はんはそのページをしばらく見た。 日付があった。 生年が書いてあった。 それだけやった。 それで十分やった。

糸は続いとった。

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