第12章 睡眠薬 572話
よしろうはんの日常の平穏は睡眠薬で保たれている。
不規則なスケジュール。これをこなすには必要なことだ。
昔からの生活リズムではあるが、年齢とともに睡眠時間は短くなった。
最低でも六時間は確保しなければ平穏は保てない。
「お父さんは自然派なイメージですけど。だいじょうぶですか」
アルマーが尋ねた。
「アルマー。僕は自然派ではない。どちらかというと理論派だ」
よしろうはんは笑った。
「思想は科学者やからね。考えた挙句、医者と相談しながら睡眠薬やそのほかの薬も調整してもらっとる。心配せんでよかよ」
「そうですか。お父さんが心配になりました」
「ありがとう。アルマー」
そのやり取りを聞いていた不二子はんが湯飲みを置いた。
「薬を飲むことも、生きる工夫の一つですやろ」
よしろうはんは静かにうなずいた。
窓の外では、田んぼから蛙の声が聞こえていた。
平穏とは、案外そういう小さな工夫の積み重ねで出来ているのかもしれなかった。