第十二章 ひかえめ除湿 580話
梅雨の昼下がりやった。
不二子はんは縁側で団扇をぱたぱたしながら言うた。
「奥方様、なんやこの湿気。ギターがふやけそうや」
「木の楽器には少々つらい季節ですね」
「よしろうはんも言うてはったわ。湿気はあかんて」
奥方様は庭を見た。
「湿気そのものより、急な変化の方が怖いのです」
「人間と一緒やな」
「そうかもしれません」
しばらく雨音だけが聞こえた。
「ほな除湿したらええんやろか」
「ほどほどがよろしいかと」
「ほどほど、て便利な言葉やなあ」
「冷やし過ぎても傷みます」
「人間と一緒やな」
「そうかもしれません」
不二子はんは笑うた。
「最近の機械は、ひかえめ除湿いうのがあるんやて」
「名前は優しそうですね」
「ほんまや。機械まで気ぃ遣う時代や」
またしばらく沈黙があった。
雨に濡れた庭の紫陽花が揺れていた。
「奥方様」
「はい」
「見えんもんを見えるようにしたんが眼鏡やて、よしろうはん言うてはった」
「ええ話ですね」
「せやけどな。考えるんは自分でやらなあかんのやて」
奥方様は少しだけ微笑んだ。
「それも、そうですね」
湿った風が吹いた。
不二子はんは団扇を止めた。
「なんでも、ほどほどやな」
誰に言うでもなく、そう呟いた。