第11章 迎える旅 549話
不二子はんは朝早う起きた。 宿の窓から山が見えた。 昨日より近い気がした。
朝飯を食うた。 味噌汁と飯だけやった。 それで十分やった。
荷物をまとめた。 地図を広げた。 山の奥の修道院。 名前も場所もはっきりせん。 それでも方角は分かる。 そこへ向かえばええ。
坂道を登り始めた。 朝の空気は冷たかった。 木々の間から光が差しとった。
歩きながら、不二子はんは考えた。 アルマーはもう大人のはずや。 マリアが死んで、何年経つ。 あの子はどんな顔をしとるやろ。 マリアに似とるやろか。 神父に似とるやろか。
分からん。 会うてみなければ分からん。
道が細うなった。 人の気配がなくなった。 鳥の声だけがした。
それでも不二子はんは歩いた。 足が痛かった。 構わんかった。
昼前に、小さな集落に出た。 老人がひとり、縁側に座っとった。 不二子はんは声をかけた。
この先に修道院はありますか。
老人はしばらく不二子はんを見た。 それから山の上を指さした。
あるにはある。 けど、もう誰もおらんよ。
そうですか。
不二子はんはそう言うた。 それだけ言うた。
それでも足を止めへんかった。 誰もおらんでも、記録は残っとるかもしれん。 記録が残っとるなら、糸は続いとる。
山道はまだ続いていた。