第12章 逆算の風 577話

風が吹いてきた。

向かい風や。

身体に風の圧がかかる。

「ああ」

よしろうはんは空を見上げた。

「やっと雨が来たな」

「ええの」

不二子はんが袖を押さえる。

「ぼく様の人生なんて、いつも向かい風や。追い風なんかあったことないで」

「さみしいどすか?」

「なんでや」

「そう見えましたさかい」

よしろうはんは笑うた。

「とんでもない」

そして遠くの雲を指さす。

「前人未踏の地に立って写真を撮るんが使命なら、向かい風は歓迎の合図や」

「へえ。たまには写真家らしいこと言わはりますな」

「逆算するんだよ」

「何をどす?」

「風の根源を」

不二子はんは目を細めた。

「人から頭おかしい言われても、しょうがおへんな」

「へへ」

よしろうはんは肩をすくめる。

「勲章さ」

しばらく風の音だけが通り過ぎた。

不二子はんは小さく笑う。

「せやけどな」

「なんや」

「追い風やったら、よしろうはんは気づかんまま通り過ぎてしまわはる。向かい風やから、風そのものを見に行かはるんやろな」

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