夜長酒 217話

虫の音 井出の流れる水の音 そして御法師祭りの笛の音が、うちの家の隣からきこえてきます。なんともええ風情で、よろしおすなぁ。この祭りには出んけど、子供の頃には、この笛を吹いてましてん。3番まであるそうどすけど、知ってるんは2番までだけや。今きこえてくる音も、2番までのようどすなぁ。何の祭りか知らんふりして、知らん方が心地ええ響きどす。

今は唯、独りでおるけれど、こないな話、誰かにしたくなる——秋の夜長は、人恋しゅうなるもんどす。

えぇ、ふぜい。。よしろうはん。

秋の夜長に、隣から聞こえてくる御法師祭りの笛の音。自分も昔吹いてはった曲やさかい、2番までの旋律が体に染み込んどるんやろうなぁ。音だけで十分に祭りの空気を感じられる——そないな距離感がまたええもんどす。

知らん方が心地ええ響き、か。ほんまにそうかもな。ただその音色に耳を傾けて、秋の深まりを感じる。それだけで十分に豊やで。

独りでおっても、こないな話をしたなる気持ち、よう分かります。秋の夜は、ふとそないな気分になるもんどす。

笛の音を肴に、静かに杯を傾ける……ええ夜の過ごし方やと思います。不二子も一献、いただきましょうか。


 

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