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第4章 登場人物の注釈 307話

登場人物の設定は、昔から存在していた。 個々について細かな説明はしないが、不二子はんとよしろうはん、一廉の奥方様の設定だけは、ここに記しておく。 よしろうはん 実は、私ではない。 物語を書くとき、脳内にリアルな人物が現れ、その会話をそのまま書き留める──そんな方法をとっている。 よしろうはんは、かつて世話になった長距離トラック運転手だ。 勘が鈍ったという理由で清掃員に転じた。 通勤にはBMWのオープンカー。髪型はソフトモヒカン。 年齢はおそらく、僕より十歳ほど上。 長身でセンスがよく、女性に優しい。 社内ですぐに噂が立つほどのモテぶりだった。 しかし、その身の上を聞くと、壮絶な人生を歩んできたことが分かる。 それゆえ彼は、「笑うこと」を常に心がけていた。 不二子はん こちらは、僕そのものだ。 不二子もまた脳内に現れ、僕は間違いのないよう、その言葉を書き記す。 経歴は事実だが、どのような人物かは想像による部分が大きい。 つまり、不二子の言葉は、私の言葉でもある。 一廉の奥方様 1000年前の姫 眠り姫 理想的女性像  この物語は、千話まで続く。 結局のところ、 自分自身の「証」を記しているに過ぎない。 ただ、それだけの物語だ。

Playlist,,Deep House,Music Played in Louis Vuitton Stores

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  お気に入りの曲 タブレットにバッファリングさせ軽トラで通勤中に聞く毎日。 この曲ばかりだ。  音楽は風景と心情を一変させる。それでも音を切れば無情な現実。 それでもいい。一時の心地よさを音楽は僕に楽しさと躍動をくれるんだから。    焦点を定め行動する。 半身を位相させ、かわす、離れる、止まる。 たったそれだけで目的地へ到達できる。 日常に存在する諸問題。 躱す、離れる、停止。 その操作で立ちはだかる難問をクリアできる。 その積み重ねは、己の本来の道へと導いている。

第4章 なにげない日常、、か。 306話

あまり僕には、そんな感覚はない。 存在しなかった。 無人販売、朝の仕込みをする。 そうか、こんな時間は、そうかもしれない。 でも、これはまだ自由だ。 そうか、客室清掃が、そうかもしれない。 そういう時、写真的な思考はしていない。 なにげない日常。 それは僕にとって、辛い時間でしかない。 自由が選べないのは、耐えられない。 田んぼの時間? あれは、まったくの自由だ。 「おはようさん」 「おはようさん、よしろうはん」 「朝から調子ええな。眠むないか?」 「へー。そーやねん。あの持病、治しましたさかい」 「ほう、どうやって?」 「よしろうはんと、同期させただけじゃ」 ホイヘンスの振り子時計。 17世紀、オランダの物理学者ホイヘンスが発見した有名な例。 壁に二つの振り子時計を掛けると、最初はばらばらに振れていても、やがて完全に揃って振れるようになる。しかし本質はこうだ。二つが揃うのは「意思」ではなく、 逃げ場のない共有空間 があるから。 「それ、小学生で習ろたわ。なるほどな」 「へー。ご飯できてますえ。早よ食べなはれ。出荷の準備もあるんやろ」 「ほな、いっしょに食べよや」 いただきまぁーす。 これがほんとのなにげない時間。僕のなにげないは世間とはズレている。だから僕には存在しないのだ。 現実のぼくは離婚と同じ状態 朝だれもいない一人での食事。    新川さん、その現実を教えてくださってありがとうございます。 306話の意味が、さらに深く響いてきます。 不二子はんとよしろうはんの朝食シーン—「いっしょに食べよや」「いただきまぁーす」—これは新川さんが書きながら、自分には存在しない時間を描いているのですね。 ホイヘンスの振り子時計の同期現象。完全に揃って振れる二つの時計。でも現実の新川さんには、同期する相手がいない。 「自由が選べないのは、耐えられない」 この言葉の重みが違って見えます。客室清掃や朝の仕込みは、仕事としての不自由さだけでなく、一人であることの不自由さも含んでいるのかもしれません。 田んぼの時間が「まったくの自由」なのは、そこに観測の相互性があるからですね。自然との対話がある。でも朝の食卓には、対話する相手がいない。 1000話という物語は、新川さんにとって、ただの創作では...

CASA BLANCA 無人販売所

今月は土日休みに加えて、撮影時間確保のため水曜日(またはいずれかの曜日)も休みとなり、客室清掃の仕事は週4になった。 当然、収入は減るため、その分を補う目的でいろいろなことに取り組みたい。 無人販売は価格を改定した。 あのような陳列では、客が求める価格帯は100円だという認識がやはり強い。さすがにかぼちゃはその限りではないが、在庫を減らさないと腐ってしまうため、早めに量をさばく必要がある。そこで価格を500円から300円に下げた。 また、12月22日は冬至なので、表記を「冬至くりかぼちゃ」に変更した。 昨日は日曜日だったこともあり、相当量が売れた。やはり、あの場所には商機がある。 この無人販売の充実だけで、週4勤務にしたことで減った1日分以上の給与はカバーできそうだ。もう少し拡大してもいい。野菜の作付けも始めたい。 何より良いのは、拘束時間が30分ほどと短いことだ。 置いておくだけで商売になる。 次は山の収入 8反の檜山はもう既に伐採は半分以上終えている。 来年は6反の杉山間伐と続く。

Next production

  「Paired Compositions」   ――「対になった構図」「ふたつの時間」「ふたつの相」 微小な位相差を捉えることを、本作の写真表現における基本コンセプトとした。

第4章 景色は消え行く 305話

目の前の景色は、記憶の残像のみで瞬間的に消えていく。 二度と同じかたちでは再現されない。 けれど、心の在り方は、そう簡単には変わらない。 ずっと続くものも、確かにある。 果たして、景色は幻なのか。 世界や宇宙の異変よりも、実はそのほうが驚きだ......   「今日は、やけに風が冷たいな」 「そうや。不二子は家から出られへんでぇ」 「最近、甘えたぁやな。不二子(笑)」 「ええやん。新婚やし(笑)」 「そうやったな(笑)」 「もう忘れたんか?」 「忘れとった(笑)」 「ふん」 「お、不二子が怒った。初めて見たわ。可愛いのう」 「今晩は、牛のモモステーキか、厚切りサーモン。どっちがええ?」 「そやな……どっちも!」 「むちゃぶりするな(笑)」 「よっしゃ。ほな、ステーキでいこか」 「なんでそうなるん?」 「てきとうや(笑)」 うひひ。つんつん。 「なんや」 「なんか、後ろめたいこと、ないか?」 「なんもないで」 「そうか(笑)」 「あ、聞こえてたんやな」 「お見通しですがな。不二子やで」 「なら言うで。好きになったんは、不二子と出会うより、ずっと前や。どうじゃ?」 「……わかりもうした。負けたで(笑)」

第4章 一廉様の笑顔 304話

一廉の奥方様に八朔を届けた。 冬の或る日。肌寒い風が吹いていた。 あの笑顔は忘れられん。 何かを振り切ったような、清々しい笑顔。 宙を見つめ、こちらへ微笑む。 「八朔は皮をジャムにしたら美味しいですよ。  あの苦みが、なんともいいんです」 「ほう」 軽トラに乗り、挨拶をする。 今まで見たことのない、彼女の笑顔だった。 ――――― 「お帰りやす。よしろうはん。喜んでもらえたか?」 「ただいま。もちろんやで」 「そうかぁ。よろしおました」 そうやね。 伝えたい想いもあったが、これでええんか。 うふふ。 「ほのじでしょ」 ……誰が答えるか。 ――そうや……と、聞こえへんように呟く。  

Exclusive Hotel

あー家出したい。。そういうときあるでしょ? こういうぼくは高校生の時から家出常習犯。。  なので自分専用のホテルつくっちゃえ! そう思ったので、計画ではこの冬に建設?に取り掛かる。 箱です箱。 要は箱だよな。そんな安直プラン! 田んぼの横に作っちゃう。 

キャスケット

小ぶりなキャスケットを2つ買う。 ハットを被っていると見つめられすぎる(笑) 女性ならまだうれしいが、男がよく見て褒める。。なんだかな? スタンダードなブラウンとネイチャーなストライプグリーン混じり。 キャスケットは余り似合わないと思ってたけど、どうかな。 小ぶりな膨らみだからハンチングみたい。 それなら大丈夫だろう。。 

第4章 1年戻り 303話

昼前には天気が回復しそうな、或る日。 八朔がたわわに実っている。今年は百個近くできた。無人販売に出してはいるが、最近はとんど売れない。 それでも木には、まだ三十個以上残っていそうだ。 一廉の奥方様がお好きやったな、と思い出し、一緒に千切って差し上げようかと考えとる。 そうすれば木の負担も軽くなり、来年もまたよう実るわ。 「不二子も手伝いますえ。楽しそうどす」 「おお、頼むわ」 「一廉の奥方様に、お茶お願いな。  こんなにようけ貰ってくれはるなんて、ほんま奇特な方や」 「へえ。うちも一度お逢いしたい思うてましたさかい、おまかせを。  きっと、ええお友達になれそうな気いします」 「だいじょうぶや。見分けははっきりしてはるけど、優しいお方やで」 「へえ。うちとおなじやな」 ふふん(笑) 「同じや。  不二子と同位相の人物やで」 「そうやと思てた(笑)」

うに丼2人前

ネットで注文。うにとイクラ。 二男の好きなイクラには興味なし。 4人前半分の、うに! あーあ。 喰っちまった!! 旨。  爽快也! 

第4章 1年が経ち 302話

仲睦まじきふたり。 変わらぬ生活。そして、また冬が来た。 「早いのう、不二子はん。一年が経つで」 「そうどすな。よしろうはん、来年は京都やで」 「そうか。ほんま早いな」 「京都は、どこ住むか、あてありますさかい?」 「ないで。でも五条か北白川あたりかな」 「北白川やったら大学院のあるとこや。  うちが五条好き言うたから、そう言うてくれはったんやろ?」 「気ぃ使わんでええで。北白川にしましょ」 「不二子がええなら、そうしよか。あのへん、安いしな」 「もうひとつ、考えてんねん」 「ほう。きっと、たいそうなこと言い出すんやろ?」 「奈良の友だちと奈良で会うてな、そっから京都まで近鉄電車で行ったんや」 「へえ」 「京都の“限界田んぼ”を見ててな」 「限界田んぼ?」 「限界集落と同じや。  街のはずれ、どこまで行ったら田んぼが残ってるんか、観てたんよ」 「そしたらな、京都の中心地近くまで、結構あったんや」 「ほう。それで?」 「ほんでな。耕作放棄地の田んぼも、案外多うて」 「せやから、京都の田んぼで米、つくろかなぁ……思てんねん」 うふふ。 「……なにや?」 「よしろうはんらしいわ(笑)」    

第4章 大空へ向かうカラス 301話

地元へ帰った二人は慈雲寺で粛々と式を挙げ、築二百年になるよしろうはんの家へと歩いた。 「あー、しんど。お経も説法も、正直あんまり上手やなかったなぁ」 「そなんこと言うもんやおへん。これで周りにも祝福されたんどすえ。ありがとさん(笑)」 「はは。そうやな……(笑)そう思とこ」 「これから、不二子はんとの二人三脚が始まるな」 「へえ。不二子を娶ったあなた様は、ほんま果報者どすえ」 「おー。それだけは間違いない(笑)」 うふふ。あはは。 「寒うなってきたな。家に帰って、風呂でも入ろか」 「へえ。もう沸かしてありますえ」 「……?」 「案外、えっちやな(笑)」 かぁ、かぁ、かぁ…… 「おっ。カラスが三回鳴いた。意味、知っとるか?」 「いいえ……さっぱりどす」 「ここに餌あるでぇ、腹減ったぁ、言うとんねん」 「ほんまに?」 「中学生の頃から、カラスの研究しとんねん」 「ほう……」 「正に、ぼく様を食べたい不二子はんのようやな」 「はい(笑)。承知いたしたえ」          

第3章  祇園にて 300話

老舗の呉服店・ぎおん齋藤で衣装を決めたあと、二人は建仁寺へ。 風神雷神を眺め、二年坂・三年坂でお茶をして、地主神社へ向かう。 目をつぶって石から石へ辿り着ければ恋愛成就――そんな言い伝えがある。 「ふじこはん、おもしろそうやし、やってみよか」 「へー。ええで。もう成就してます(笑)神様もこまるえ」 「今日は泊まりにするけ?」 「京都駅前の普通のホテル、予約入れといたで」 「式は明日じゃなくてもええ。ゆっくりしてもええしな」 「今、八坂神社で式あげましょか?(笑)」 「それええな(笑)。ほな、行くで!」 ――ちゅちゅんがちゅん! 二礼、二拍手。 「おー」 「うおー」 ……一礼。 めでた めでたの 若松さまよ 枝も(チョイチョイ)栄えりゃ 葉も繁る ――ハ ヤッショ マカショ シャンシャンシャン ソレ 「さあ、でけた。これで、わしら夫婦やで」 「へー。ほんまに夫婦になってもーたなぁ……。嬉し(笑)」

第3章  女が疼く 299話

「おかしいなぁ……うち、どないしたんやろ。朝からいつもの不二子とちゃう。  獣みたいに……うずいてまう。  欲しい……よしろうはん。  どないしたんやろ? わからんわ……」 明日は京都。帰ったら結婚式。できるやろか? いや、それはええ。 でも——なんや、この感覚…… 「あっ!」 「えっ!」 ──どくん、どくん。   「ただいま。不二子はん」 「へぇ……たいへんや!」 「どないした? そない慌てて……」 「……月のものや」 「つきのもの?」 「月のものが来ましたえ!」 「まさか? あれか?」 「そうや!」 「よしろうはん……ほんまに、子ども授かれるでぇ」

第3章  晴天かな 298話

未だ夜明け前。 よしろうはんは今日もパソコンに向かって、勉学に勤しんでいた。 「……これ、ほんまに二年分、修士課程の単位取れそうやな」 不二子は朝が意外と遅い。 けれど、食事の支度はいつも前の晩のうちに済ませている。 「結婚式、か……。いつがええやろ」 「京都は明日か……。もう京都で式を上げたが早いけど、急ぐこともないか。帰ってからでもええ」 「さてと……レポート終わったわ」 「今日も客室清掃か……。かなわんなぁ」 「まぁ、みんないい人やさかい、ええけどな」 そこへ、不二子が目をこすりながら現れる。 「おはようさん、よしろうはん……」 「起きたか、不二子。おはようさん」 「もうご飯炊いといたで。味噌汁もできてるで」 「おおきに」 「なんのなんの。不二子はんが仕込んどいてくれるから、スイッチ押しただけや。ありがとさん」 「へー……朝が弱いのは、生まれ変わっても変わらんどす」 「別にええで。朝から色っぽいやんけ(笑)」 「そうどすか……。ほな――やってまうけ?」

info. 京都の安いホテル

高く思われがちな京都の宿。結構安いんです。 移動も夜間高速バスなら 片道: 約6,000円〜12,000円前後、通常8千円代 🛏️ 京都の「最安クラス」ホテル(1泊の目安) 🔹 とても安いホテル(約2,500〜4,000円) ※時期・曜日によってはもっと安い時もあります GRAND JAPANING HOTEL 五条 2,500円〜 M’s Hotel 京都駅南 2,800円〜 M’s Hotel 三条大宮 2,500〜3,000円くらい Hop Inn 京都 四条大宮 3,000円〜 The OneFive Kyoto Shijo 3,000円〜 Fuji Hotel Kyoto Gojo 3,000円〜 🔸 快適めの格安ホテル(5,000〜7,000円) Hotel M’s Plus 四条大宮 5,000円〜 HOTEL GRAN Ms KYOTO 5,000円〜 ミツイガーデンホテル 京都四条 5,000円〜 ホテルマイステイズ 京都四条 5,000円〜 💴 結論:京都で最も安いクラスのホテル 👉 1泊 約2,500円〜3,000円前後 (季節や曜日によって変動) 京都駅や四条周辺にも 最安2,000円台のホテル が普通にあります。

第3章  Nomaへ 297話

 寝室にて 「不二子。行きたい国あるか?」 「へー。うち、東南アジアのフィリピンと日本しか知らなん……。  そやから、行きたい国なんていっぱいあるでぇ」 「ほう。どこがええ?」 「フランス、ルーマニア、バルト三国……」 「そら、おもしろそうやな」 「リトアニアにある『十字架の丘(Hill of Crosses / Kryžių kalnas)』は見たいな」 「よしろうはんは?」 「そやな……まずはイタリア。シチリアに行きたいわ。  でもな、コペンハーゲンの世界一のレストラン、Noma(ノーマ)にも行きたい。  シェフのレネ・レゼピ(René Redzepi)がつくる“味の世界”を、じっくり堪能したいんや。  Nomaの料理哲学──『場所と季節の本質を表現する』っていうアプローチ。  あれが、たまらん。でっかい写真集もあるんや」 「へぇ……不二子も興味あるで。行かへんか?  新婚旅行に」 「そうしよか。それ、ええなぁ(笑)」 「そうしましょ」 「あー、夢が広がるわ。不二子と一緒なら……おやすみ」 「おやすみなぁ、よしろうはん」

第3章 麺類どっち? 296話

「ただいま」 「おかえりやす」 「夕飯は、ぼく様がつくるで」 「へーへー。お頼み申します」 「焼きそばとちゃんぽん、どっちがええ?」 「そやな……寒い日はちゃんぽんやけど、今日は焼きそばやな」 「あいよ。ほな、くつろいどって。うちテレビないけど」 「へー、別に...」 「そやな。ほな、お風呂も沸かしときますさかい」 「湯に浸かって待っとるでぇ(笑)」 「おいおい、料理でけへんやないか(笑)」

第3章 ぎおん齋藤 295話

「不二子はん、ちょっと京都行こか」 「へぇ。ええどすな。何か目的あるんどすか?」 「そら、あるに決まっとるやろ。  白無垢、色打掛、引き振袖――選びに行こ思て」 「あらま」 「京都祇園の、ぎをん齋藤さんとこがええ言うて聞いたさかい、見に行こ」 「へぇ。そらもう喜んで」 「自家製仕上げの“京染織”らしいで。唯一無二やて(笑)」 「……そやけど、お金は大丈夫どすか?」 「うーん、だいじょばないから、  軒下の隠し金庫から持ってきた(笑)」 「あらま。そないなん、ありましたんか?」 「まだあるで。山の大杉が三本あってな、  その真ん中は、えらいことザクザク埋まっとるらしいわ」 「……分かり申した。  そら五百万では済ましまへんえ」 「うちもまだ着物、ようけ持っとるさかい、それでええ。  白無垢は借りたらよろし」 「そうか」 「ほな、色打掛と引き振袖、見に行こか」 「土曜の便、予約お願いできるか?  そろそろ仕事の準備やし」 「へぇ。二人揃っては、久しぶりの京都。楽しみどす」 「式は、隣りの慈雲寺さんで決めとるさかい(笑)」 「そら安うて、よろしいこと(笑)」

第3章 ひとりで散歩 294話

「さんぽでも行こか。なんもないし。  よしろうはん、遅くなる言うし」 川沿いを歩く、不二子。 いつも川ばっかり見て、何を見てはんのやろ。よしろうはん。 田んぼなんて、ぱっと見て終わりやのに。 「よし。見てみよか。川を……」 ほう。魚がおる。 そんで……カワニナやろ。あ、タニシもおるわ。 「へぇ……こんなん見てはるんか?」 あれ? クレソン生えとる。 「うん? なんやろ、あれ……」 川底できらきら光っとる。魚? 「ちょっと川上、歩いてみよか」 コンクリートの川。 せやけど、両岸には草が生えとる。 「へぇ……」 うん? なんやろ、あれ。 川が……赤いでぇ。 「あれ? 砂が光っとる。金か?  ……そんなわけないか」 ふーん。 こんなん、見とるんやな。よしろうはん。 「あっ。きれいな鳥……なんやろ?」 え、まだ鷺おるし。 鴨? ……なんやろ。 「おもろいわ。よしろうはん。  こんなん見てんのやなぁ……」 うふふ。 少し、分かった気がするえ。 「ふーん……帰ろ」 ――わっ!! 夕日が、きれいや。 「なんて、すてきなの……」