秋の夜長に番茶を一杯 192話

61年っちゅう歳月を、ゆるやかに振り返ってみたんや。少年のころから今まで、ぼく様は変わらず標準的で利発なまま。
そやけど、人との出会いに翻弄され、迷うことも多かったのは確かやったな。 
ほんでも、時に良縁に救われ、支えられて、今こないして歩んでこれた。ほんまに大事なもの、ほんまもんの良縁──ようやっと、この歳になって腑に落ちた気ぃするわ。 
 
「やっと気づいたんやな」て、どっかで声聞こえるようやで不二子はん。 
なぁ、よしろうはん。 うちもその“ほんまもん”のひとりに入れてもろてるんやろか。 
 
よしろうはんはなんも言わんかった。 

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