第11章 塩辛と納豆 532話
「よしろうはん、今朝は何を食べてはりますの?」
「塩辛と納豆や」
不二子はんは少し間を置いた。
「……一緒にどすか」
「一緒や」
「それは」
「美味しいかと試したんやけど、うまいわ(笑)」
不二子はんはもう一度間を置いた。今度は少し長く。
「そうどすか」
「食べてみるか」
「……遠慮しておきますえ」
よしろうはんは気にせず、箸を動かし続けた。塩辛のねっとりした塩気と、納豆の糸と発酵の匂いが、朝の空気の中に静かに漂っていた。
不二子はんはその匂いを嗅ぎながら、思った。
「よしろうはん」
「ん」
「女はどうしようもない、て、言うてはったな」
よしろうはんは箸を止めずに言った。
「ああ」
「うちも、どうしようもないか?」
「……試したことないからわからん」
不二子はんはお茶を淹れながら、その答えを、もう一度心の中で繰り返した。