第10章 カンカン帽 512話
日差しが日ごとに強さを増すこの季節、よしろうはんは黒いカンカン帽を目深にかぶって過ごしていた。
不二子はんも薄手の着物に日傘をさして、涼しい顔で歩く。
ふたりの佇まいは、大正の街角がそのまま現代へ迷い込んできたようであった。
「よしろうはん。その黒いカンカン帽、いつから持ってはった?」
「ああ、これか。昨日買ったんよ。どうや、似合うか?」
へー
「ようお似合いで」
「よかった。初めて買ったから気恥ずかしくてな」
「うふふ。だいじょうぶやで、似合ってはるわ(笑)」
「なあ、ふじこはん。暑いな」
へー
「そうどすな」
「丘の上の茶店でレイコ飲もうか」
「ええどすな。レイコ飲みましょ(笑)」
窓越しに見える南阿蘇の田植えの風景。
からんころんと手元のグラスの氷が涼しげに響いた。