第11章 皐月の稲 芽を出すか否か 五月雨近し 528話
皐月の雨が来る前の晩、不二子はんは縁側に腰を下ろして空を見てはった。
「芽を出すか否か、か」
声に出してみたら、なんや稲のことやない気がしてきた。自分のことか、あの人のことか、それとも何年も前に置いてきた何かのことか、もうわからん。
阿蘇の夜は静かで、静かすぎるから余計なことを考える。
離婚届は引き出しの中や。明日出すかもしれんし、出さんかもしれん。どっちでもええような気もするし、どっちでもないような気もする。
ただ、田んぼには種を降ろした。それだけは確かなことやった。