第七章 朝の味噌汁 三八二話
朝、不二子が起きてきた。 よしろうは台所で味噌汁を作っていた。 「おはよう、不二子はん」 「......おはようさんどす」 不二子は台所の入り口で立ち止まった。 匂い。 味噌と出汁の匂い。 「どないしたん」 「......いえ」 不二子は首を傾げた。 何か、引っかかる。 この匂い、知っている。 いつ?どこで? よしろうは味噌汁を椀に注いだ。 湯気が立つ。 不二子は椀を受け取った。 手のひらに伝わる温度。 この温度も、知っている。 「不二子はん?」 「......よしろうはん」 「なんや」 「うち、この匂い、覚えてます」 「味噌汁の匂いか」 「いえ。よしろうはんの作る味噌汁の匂い、どす」 よしろうは黙って不二子を見た。 不二子は椀を持ったまま、目を閉じた。 「身体が、覚えてますねん」