第二巻 第六章 恋慕 三六一話
時代は速い。
さて、恋慕。
こいしたう。
つつましきかな。
不二子とよしろうは、今日も川沿いを歩く。
「よしろうはんと川を歩くの、久しぶりやな」
よしろうは笑顔で頷くだけで、遠くを見ていた。
すっかり、おしどり夫婦のふたり。
しかし、これからよしろうには大仕事が待っていた。
博士号取得への道は、まだ長い。
これは、よしろう一人では無理であった。
不二子の力をかりても、無理だろう。
よしろうの〈ぼく様〉と〈僕〉が、もう一度融合せねばならない。
位相が離れすぎても、近すぎても、振動は生まれない。
つまり、何も成し得ない。何も生まれないのだ。
よしろうは穏やかな人。
僕は両極端を抱えた野獣。
「どないした? うかへん顔して」
「いや……なんでもないわ」
桜の木が、悲しんどる。
もうすでに、伐採の話が部落内で騒がれている。
よしろうはんが言った。
「この親父が植えた桜、
いつまでも見れる思たら、あかんで……」
不二子も言うた。
「この桜、今年もよーけ咲くとええな。
よしろうはん……」
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