第七章  八朔の記憶 三八三話

「思い出す不二子」

不二子は庭に出た。

冬の日差しが、枯れ草を照らしている。

ふと、足が止まった。

この景色。

見たことがある。

いつ?

不二子は目を細めた。

枯れ草の向こうに、八朔の木。

「......よしろうはん」

「なんや」

よしろうが縁側から顔を出した。

「あの八朔の木、うち知ってます」

「そら、ずっとあるからな」

「いえ。よしろうはんと一緒に見た、どす」

よしろうは黙って不二子を見た。

「ちょっと待っとき」

よしろうは庭に降りて、八朔の木に近づいた。

枝を引き寄せて、一つもぎ取った。

「ほれ」

不二子は八朔を受け取った。

皮を剥く。

酸っぱい香り。

この香り。

一房を口に入れた。

酸味が広がる。

不二子の目が見開いた。

「......よしろうはん」

「なんや」

「この味」

脳内が揺れ動く。 

涙が流れた。

「思い出しました」

よしろうは黙って不二子を見た。

「祇園のこと」

「おう」

「結婚したこと」

不二子はよしろうを見た。

「怖かった」

「もう、ええ」

「へえ」

「おかえり、不二子はん」

「......ただいま、どす」

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