12章 労働から資産へ 604話
「不二子はん」
「なんどす、よしろうはん」
「ぼく様、最近ようやく分かったことがあるんだ」
「どないなことどす」
「これまでのぼく様は、自分が動いて収入を得ることばかり考えてきた。働けばお金になる。でも、働かなければ収入は止まる。それが当たり前だと思っていた」
不二子はんは湯呑みを手にしたまま、小さくうなずいた。
「案さん、それは商売やのうて、労働どす」
「違うのかい」
「違いますえ」
「どう違う」
「案さんが働かはるから、お金が入る。それは悪いことやおへん」
少し間を置いて、不二子はんは続けた。
「せやけど、案さんがお休みになったら、お金も一緒にお休みしはります」
ぼく様は黙ってお茶を飲んだ。
「資産いうもんは、案さんがお休みでも働いてくれます」
「例えば」
「森林どす」
「木か」
「木ぃは毎日少しずつ育ちます。急ぎまへん。でも止まりまへん」
「なるほど」
「作品もそうどす。一枚の写真が何年もあとに売れることもあります。本もそう。著作権も、印税もそうどす」
ぼく様は窓の外へ目を向けた。
若い頃は、早く稼ぐことばかり考えていた。
これからは、時間をかけて育つものを増やしていきたい。
「不二子はん」
「なんどす」
「ぼく様、これからは働き者を増やしていくよ」
不二子はんは静かに笑った。
「案さんが働くより、案さんの代わりに働くもんを育てなはれ。それが資産どす」