第12章 すてっぷ ばい すてっぷ むーびんぐ あうと 606話
動かないと道はひらけない。当然だ。
よしろうはん。少し身軽になろうと、踊りのステップや肩と腰の動き、手の使い方をチェックする。Funk & Soulの曲を流しながら鏡の前で身体を動かす。
静かな動きのようでいて、身体の中では少しずつ何かが変わっていく。考えているだけでは進まない。動けば、身体も心も、次の一歩を見つけてくれる。
不二子はんは、湯呑みを両手で包みながら、その背中を見ていた。
へー
「案さん、かなり踊れるやん」
よしろうはんの身体は、音を追いかけない。
音が来る前に、もうそこへいる。
肩がほどけ、腰が流れ、指先まで音楽が通り抜けていく。
若いころに覚えた技やない。
何度も人生をくぐり抜けた身体だけが知っている、余白のリズムや。
不二子はんは、そっと笑う。
「人は動けんようになるんやない。動かんようになるだけなんやで」
踊りは見せるためやない。
心にたまった重みを、一歩ずつ床へ返していくこと。
「案さんええ感じやで」
その姿を見ながら、不二子はんは小さくつぶやいた。
「やっぱり案さんは、動いてるときが一番、案さんらしいわ」
ふふ
「飽きひんおとこやこと。案さんは。
また人生、変えはるわ。きっと」