第13章 研究者の自己パロディどすえ♡ 632話

 
「あら、よしろうはん。彼女でも探さはるの?」

「せやねん。不思議なことに、モテへんわけやないのに、お声がかからへんのよ。なんでやろ?」

「そら、研究せなあきまへんなぁ。仮説は?」

「怖い。不安定。気難しそう……とか?」

「あらまぁ。ずいぶん物騒な研究対象どすなぁ(笑)」

「そやけど、料理は上手やし、掃除もそこそこするし。片付けは苦手やけど、やるときは徹底するし。運転は上手、気前もええ。米もつくるし、写真も論文も楽器もやるで」

「まぁまぁ、履歴書に書いたら、なかなかのもんどすえ」

「せやろ? 顔はあかんけど、服装もそれなりにちゃんとしてるしな」

「……よしろうはん。ひとつ聞いてもよろしおすか?」

「ん?」

「それだけご自分の長所を並べはって、肝心の女性の気持ちは、どこで研究しはったん?」

「……あ」

「ほほほ。研究者いうもんは、自分の専門分野やと難しい理論も組み立てはるのに、恋愛になると急に自分ひとりで結論を出さはるんやねぇ」

「昔はお声がいっぱいかかったんやけどなぁ」

「昔は?」

「昔はよう笑ろてた。最近は目が据わってるんやて」

「あら、それは大変。お米の出来具合を見てるときも、写真の構図を考えてるときも、女性を見てるときも、同じ目ぇしてはるんとちゃいます?」

「そうかもしれんなぁ……」

「ほな、ちょっと笑ろてみなはれ」

「こうか?」

「いややわぁ。そないに真剣に笑わんでも(笑)」

「なんでや!」

「ほら、今の顔どすえ。ええお顔やないの」

「ほんまか?」

「ほんまどすとも。けどねぇ、よしろうはん」

「なん?」

「女性に声をかけてもらう方法を研究するより、気になる女性にご自分から声をかける研究を始めはったら、どないどす?」

「……それは、研究費が要りそうやな」

「あら、そこは気前がええんとちゃいますの?」

「うーん……」

「論文は書けても、恋文は書けへん。写真は撮れても、女性の心は撮れへん。ほんま、研究者も難儀な商売どすなぁ」

「ちぇっ! もうええ歳やしなぁ」

「あら、よしろうはん。歳のせいにしたらあきまへんえ。恋愛に定年はおへんのやから」

「ほな、まだ可能性はあるんか?」

「さぁて。それを確かめるんが、これからの研究やおへんか」

不二子はん、にっこり。

人間いうもんは、自分のことがいちばんわかってるようで、案外わかってへんもんどす。

せやけどねぇ。

研究者の目が据わってるのは、真実を見つめてるからかもしれまへん。

ただし、女性まで研究対象にしてしもたら、いつまでたっても論文は完成せぇへん。

たまには理論を捨てて、笑顔ひとつで勝負してみなはれ。

案外、そこから新しい研究が始まるかもしれまへんえ。

……もっとも。

笑顔の向こうで、誰がどんなことを考えてるか。

それだけは、実験してみんことにはわかりまへんなぁ。

うふふ♡


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