河津桜
水俣の桜はとても早い。
河津桜という早咲きの桜だ。私の家にも河津桜が一本あり、すでに見頃だ。
大学時代から十数年間水俣に通って撮影していた。
覚えたのは見えない世界をどう写すかであった。貴重な気づきであった。
ユージンスミスの撮った水俣の世界なのかと思い赴くと、ただ美しい景色ばかり。チッソ工場の堀だけが悪臭を放つが、その他は平穏な風景であった。
袋の丘の上にろうそくの原料となるハゼノキが多くあった。独特な美しい景色を私は好んで何度も撮影した。どこを探してもスミスの景色はなかった。水俣湾もまた干拓工事が終わりに近かった。恋路島を見てはどう撮影していいか悩み、黄昏ていた。
ある夏、私はハッセルブラッド一台と、フイルム500本をもって大阪から撮影に臨んだ。
結果は何を現像しても私の思う世界が写っていない。半分現像を終え、残る250本を捨てた。
なぜなんだ。あらゆる方法論を使っても、現場で見えていないものは写せないのか、と落胆し悩んでいた。
そこから私の探求の旅が始まる。
見えない世界を写すんだと。
今では幾つかの方法論を体得しているが、写真の歴史は常に見えない世界を見えるようにして来たと私は思う。
まだまだ終わらない学びの旅が新たに始まるんだな。