父が弱っている
あれだけ強靭な人格を持っていた父が、今はか弱い子供の様な口調で叫ぶ。
弱弱しい目つき、そして泣き顔で訴える、、
俺は何故こんな目に合わなくちゃいけないんだ、
なんでこんなことをする。
背骨がつぶれても暴れる父には拘束体が施されている。
昔の父とは全く違う。
家に帰っても自分の家とわからないので、ここはどこですかと尋ねる。
尋ねた相手もわたしが息子であることをわからない。
周りの世界に繋がりはなく、孤独な世界に生きている。
それがどれだけ辛いかわたしは知っている。
アルツハイマーにしろ痴呆症とは本人も我々家族にも本当に居たたまれない病だ。
或る日わたしがお経を読めるので観音菩薩のお経を仏壇で唱えていた。
隣りには父が座っていた。
長いお経なので途中省略して鐘をならすと、父がいった。
ありがとうございましたと。
ふだんさほど会話もままならないのに、ありがたそうにしていた。
やはりお経の言葉とリズムはなにかしらの力があるんだなと思った。
父は今食事を受け付けない。
人間最後は食事が出来なくなると急速に弱る。
おれはなんにも父にお返ししてないじゃないか。。
受けた恩は計り知れない。
まだまだ元気でいて欲しい。