第4章 八朔に塩 318話
なるほどな。 酸っぱい八朔も、塩をつけて食べれば酸味が和らぎ、甘さが立ってくる。 これは蜜柑の産地の近くに住んでいる方から教わったそうだ。 自分たちは蜜柑を栽培しているわけではないが、よく頂くので、 親からそうして食べることを教わったという。 八朔に塩か。 こういう発想は、すきだ。 「なぁ。こうして酸っぱい八朔も、塩だけで美味しくなるやろ? 不二子はん」 「ほんまやな。それになんやろ……満足感がちゃうわ。 くだものなんやけど、ご飯みたい。……可笑しいかな」 「それ、言えてる。そうかもしれんな」 「いま、なんじ?」 「2時26分さかい」 「不二子はんも、ほんまにぼく様と同期して、朝が早なったな。大丈夫か?」 「慣れましたさかい、気にせんといて。むしろ嬉しいわ」 「そうか?」 「へー。朝はゆっくり準備できるし、夜はさっさと、 よしろうはんと添い寝できるし。 ええことだらけや。清々しい朝がこんなに長いと、なんでもできるえ」 「そうやろ。雑音がないんだ。 だから小学生の頃から、こういう生活さ」 「そうかそうか。よしろうはん、通知簿オール5やったんやろ。わかるえ」 「毎回やないで。テストは100点が多かった。 中学進学のとき、真和やマリスト行けって、先生に強く言われた」 「行かへんかったんやろ……なんでなん?」 「もう魚の研究、始めてたしな。 小学生のうちに中学の教科書も読んでた。 どこに行くかは関係ないと思って、友達の多い学校を選んだよ。 読んでた本は、学者が書いたロシアの魚類図鑑や論文や。 親父に頼んで、紀伊國屋書店で買ってもらった」 「もうその頃から、釣りと研究と1000匹の稚魚の養殖してたよ(笑)」 「あんさんらしいなぁ(笑)写真家が田んぼも当然の流れなんや」 「ほんま、八朔に塩。おいしいわ」 「そうやな。世の中、おもろいやろ?不二子」 もぐもぐ うふふ。